目標設定以前の問題

 目標管理制度上の最大の課題は、通常その目標を如何にして達成するかにある。したがって、目標の設定自体が適切であるかどうかという問題は、それほど吟味されず上から与えられるものと認識している場合が多いように思われるが、そもそもこの目標なるモノは、経営理念を源にして設定されるものであることを忘れてはならない。
 このことが忘れられがちになるのは、経営理念は抽象的でとらえ方が難しいが、目標の段階までブレークダウンされてくると数値に置き換えられるので、結局は売上や利益という形に衣替えしてしまい、これを達成することが経営理念にかなうことであると信じて疑わない。そのため、目標達成のための技法が中心課題となるわけである。
 しかし、職場の管理者やメンバーのスキルアップだけでは、目標達成に至らないと感じることも多いのではないだろうか。それは、それぞれの問題の捉えかたや思考様式の違いによるところも大きいためである。つまり、職場の使命に対する枠組みがそれぞれ異なるためにメンバーのコンピテンシーが発揮できないのである。
 例えば、同じエリア内で営業活動を展開していても、ある営業員は市場規模が小さいので、これ以上売上を伸ばすのは無理だといい、営業活動の手を休めてしまう。しかし、別の営業員は小さい市場だからこそ営業努力を怠ってはならないと考える。当然二人の営業成績には大きな差が生じてしまうことになる。
 会社や管理者からすれば、どちらを高く評価するかは言うまでもないことであるが、本来の価値はこのことをもって評価すべきではないはずである。すなわち、この二人の価値観が目標達成活動に反映しているわけで、もしも、上司からノルマとして与えられたのであれば、前者の営業員はさぞかし苦痛であったことであろう。
 目標管理制度上で評価するのは、達成度であり個人の人生観や価値観ではないのであるが、組織内では有能無能というラベルがたちまち貼られてしまう。これをやる気のなさや技術の未熟さで説明しようとしても解決がつく問題ではない。これは表面的には個人の価値観の枠組みの問題のように見えるが、実は経営理念の共有の問題なのである。