管理者に求められる対人能力

 対人能力はヒューマンスキルと呼ばれるが、特別管理者だけに求められる能力ではない。しかし、部下に対する情報提供も結局は対人能力に含まれるものであり、部下との間に良好な人間関係が築かれていれば、多少テクニカルな面が不足していたとしてもカバーできるものと考えられるが、コミュニケーションが不足していると信頼関係は育たない。
 部下との間に生じる溝はたいていコミュニケーション不足に原因があることは、ほとんどの社員が認識しているのであるが、何故かこれを解消することはできない。上司は部下のふがいなさを原因として揚げるが、部下は上司の一方的な価値観の押し付けが原因だと主張する。どちらも本当であるだけに始末が悪いのかもしれない。
 しかし、こうしたドロ仕合を続けることで企業はどんどん疲弊してくることは間違いないし、それによる損害は確実に両者にのしかかってくる。そこで、制度改革が必要になってくるということについて述べてきたわけであるが、症状が重くなれば手術も大仕掛けになるので、なかなか踏み切れないというのも理解できる。
 改革を断行すれば、必ずといっていいほど管理者に犠牲を強いることになるため、管理者は改革の旗手になりにくいのであるが、こうした症状を見るにつけ管理者の対人能力不足を実感せざるを得ない。これは正しく自己防衛的行動(不作為)であり、改革の必要性を一番感じているはずの管理者が改革に不熱心になってしまう。
 これは一口に言ってしまえば頑固ということかもしれないが、元々は対人能力の不足からきているのである。すなわち、これは価値観の押し付けに始まり、自分の自画像から抜け出せないため、自分以外の考えを全て否定的に解釈してしまうことにより、部下との間のコミュニケーションを閉ざしてしまったことによるものだ。
 上司の価値観を一方的に押し付けられた部下は、立場上反論することができない場合が多いのが普通であるから、部下は自分の意見を飲み込んでしまうことになるが、これを上司は自分の価値観を部下が認めたと解釈してしまう。上下の関係にあっても、親子などの場合は、率直に意見をぶつけ合うのでまだ救いがある。