リーダーシップの条件適応理論

 リーダーシップを巡る研究は、組織行動のあり方に幾多の示唆を与えてきたし、今後の研究にも受け継がれていくべき膨大な財産である。社会科学の分野で、普遍性を見つけ出すのは至難な業であることを熟知しながら、果敢に挑戦した情熱には頭が下がる思いである。その積み重ねが「行動から状況へ」という進歩に結びついたものと思われる。
 リーダーシップの条件適応理論では、次のような疑問を投げかけている。第一に、唯一最善のリーダシップ・スタイルは、「人間」と「仕事」という2軸だけで高度なリーダーを求めていいのだろうか。そうだとすると、フォロワーとの相性という問題は無視あるいはあまりにも軽視されすぎることになるように思われる。
 第二に、効果的なリーダーシップは、状況に依存するのではないか。ある状況下で効果を上げたリーダーシップも、別の状況では有効でなくなってしまうのではないか。これは、プロ野球の監督の采配とチーム力の関係からも説明できるように思われる。つまり、リーダーシップが不変であれば、チームは必ず勝つはずだということになってしまう。
 第三に、現実の企業に適用してみるとわかるように、リーダーの行動が2軸による評価ではそれほど優れていなくても、高業績を上げている組織もあれば、どんなに優れたリーダー(2軸による評価)の下でも成績が振るわないという状態は常に存在する。リーダーシップの条件適応理論では、これらの疑問に応えるためのアプローチなのである。
 あまり適切な例ではないかもしれないが、勝ち戦を指揮しているときのリーダーは、極めて適切なリーダーシップを発揮するが、武運つたなく敗れてしまうと、全くといっていいほど、リーダーシップを発揮できず、部下が落胆したという話はよく耳にした。これなどは、リーダーシップの条件適応理論のバックボーンになりえるのではないだろうか。
 この理論の代表格であるフレッド・フィドラーは、コンティンジーシー理論の中で、リーダーとメンバーの関係が良好であること、仕事の手順が定型的であること、リーダーに多くの権限が与えられていることといった、3つの要素を重要な状況要因としてあげている。要するに、「関係」「課題」「権限」の組み合わせが重要であることを示唆している。