複雑怪奇な心の動き

 潜在的な能力が高いため与えられた職務遂行を通じて、技術や技能、ノウハウに育つこともある。そのことによって、これまで心に抱いていた欲求が変化し、会社や組織の目標と動機のベクトルが同じ方向に軌道修正されるといった例はある。しかし、これが本物の動機であるかどうかは本人も含めて誰もわからない。
 このように考えると、物事を成し遂げるには精神的な入れ込みと、これを支えられた動機が不可欠であることは論を待たないが、動機が大きければ成果が必ず得られるというものでもないという現実に突き当たる。それはちょうど賞金獲得のために、レースやゲームに挑む動機と結果が一致しないことでも説明できる。
 しかし、これに対する反論は当然ある。エドウィン・ロックとゲイリー・レイサムが提唱した「目標設定理論」では、目標を4つの要素によって説明している。第1は、目標の困難度である。困難な目標は高い成果を生むというのである。誰もが楽々とクリヤーできる低い目標より、より困難な高い目標の方がやる気が出るというわけである。
 第2は、目標は具体的でなければならない。数値目標や期間などを具体的に示さないで、「とことんがんばれ」とか「最善を尽くせ」という漠然とした目標では動機づけられない。政治家が「全力で取り組む」などというのは、何時までにどのレベルまで達成するかを具体的に示さないのは、確かに動機が見えてこないことからも頷ける。
 第3は、目標の受容である。目標が高いからといって、一方的に示されたのでは単なるノルマに過ぎず、動機づける要因としては極めて弱い。会社が営業マンに対前年比を機械的に示すのは正しくこのタイプで、目標を示した時点で達成されないことが確定的になってしまう。しかし、現実にはこのスタイルが多いように思われる。
 第4は、フィードバック。高い成果とやる気を引き出すためには、目標達成の過程で、成果の水準をフィードバックする必要がある。どの程度目標に近づいているかを知らされることで、やる気が刺激されてがんばれたという経験は誰にも覚えがある。これらの要素は、人事考課などに織り込まれているものの、未だ核心には迫っていない。