打たれ強い中小小売業の形

 提供される品質や価格が同業他店と同じレベルであれば、トータルとしての顧客満足(顧客側から見た付加価値)は、サービスの質とサービス料金の高低によって判断される可能性は高いと見てよいであろう。小規模小売店が成り立っていた大きな理由はここにあったはずである。つまり、サービスを低価格で販売するという強みがあったのである。
 以前にこのブログで、プログラムド・マーチャンダイジングについて述べたことがあるが、その例を用いて小規模企業の打たれ強さについて説明しよう。総従業員数が6?8名のある小さな水産加工業では、過大な在庫を抱えて資金繰りに窮していたが、在庫を減らすとたちまち売上が減少するというジレンマに陥っていた。
 そこで、得意先である食品スーパーとの間でプログラムド・マーチャンダイジングを実践するよう進言したのだが、それを提案するということで取引が停止されてしまうという理由で、専務(経営者の娘婿)の猛反対に合い診断は一時中止することになったが、抜本的な解決策もなく資金繰りはますます苦しくなる一方であった。
 思い余った専務は、恐る恐る取引先である食品スーパーに打診してみたところ、大喜びであったということで、経営診断を再開しプログラムド・マーチャンダイジング実施計画を具体的に提案した。その結果、家族(経営者夫妻と娘夫妻)以外の従業員を全て解雇し、在庫のために賃借していた冷蔵庫も返却することができた。
 ここで実現できた合理化効果は、まず人件費がこれまでの60%程度に縮小したこと、冷蔵庫の賃借料および電気料が大幅に削減できたこと、過剰な在庫を処分したことで資金調達ができたことなどである。当初は家族の総収入は多少減少したが、すぐに回復し総労働時間も大幅に縮小されるようになったため、借入金の返済が急速に進んだ。
 この例は、製造業ではあるが、サービスを提供して製品を製造するか、製造した製品を仕入れ在庫し、この手間隙とリスクをサービスに振り替えて販売価格に転嫁しているかの違いだけである。そう考えれば、この例のように付加価値の中で大きなウエイトを占める人件費をコンパクトに抑えることで、顧客満足を高めることは可能である。