変革期を迎えた終身雇用制度?その2

 欧米ではサービスの品質が格段に向上し、日本企業との付加価値生産性格差が驚くほど拡大している。当初はこの現象を人的技術力の進歩という尺度で解釈してしまったため、これまでの蓄積に余裕のある日本企業はIT化革命による影響とは認めず、新たな対応策を講じる姿勢を示さなかったが、このスタートの遅れが未だに尾を引いている。
 つまり、この変革も従来の延長線上にあるもので、器用さという点では一日の長があるわが社に分があると鷹をくくっていたことが原因である。当然、労働側もこれまでの勤勉さが将来的にも高く評価されるものと決め込み、ITなどの技術革新に懐疑的な姿勢を示していた。歴史に学ぶ姿勢に欠けていたといわざるを得ないのである。
 変革期には大なり小なりこうした混乱が起きることはやむを得ないことであるが、変化が加速化している現在においては、いい加減にして時代錯誤から脱却しなければ、両者の体力は再生不能な状態にまで減退することになる。グローバル経営にパラダイムシフトした企業にとっては、こうした小競り合いはむしろ追い風になっているかもしれない。
 もしかすると、これが勝ち組と負け組みの格差の根本原因ではなかろうか。そう疑ってみると、かなり符合する面があることを認めざるを得ないとすれば、雇用関係の基本原則である、誘引と貢献のバランスに立ち返った議論にもどして、制度設計をやり直す姿勢を示すべきであり、配分の論理に固執しているだけでは埒があかない。
 従来型の終身雇用制度は、確かに安定感があり日本人の思考様式にもかなっていたが、労働者が提供する役務(サービス)の品質に対する評価が変わってしまった以上、企業における付加価値生産性の低下を見過ごすわけには行かない。不確実で不連続な時代において、既得権を温存することはリスク管理上からも適当な選択とはいえない。
 経営側は付加価値生産性の水準が低いから、労働分配率を上げられないといい、労働側は、付加価値が拡大しているのだから分配率も上げるべきだと主張しているが、どちらの議論も本質的ではないように思われる。付加価値の高い労働とはどのようなものかを示し、レベルアップを図る方策を両者で議論すべきである。