付加価値という概念をもう一度整理してみる

 ここで実施した分析から得られた一つの結論は、付加価値率と付加価値生産性とは近くて遠い関係にあるということであった。したがって、付加価値率やこれとの関連が深い人件費率、労働分配率などをむやみに引下げるだけでは、付加価値生産性の改善に繋がらないことも学んだが、それでもまだしっくりこない面もあるのではないだろうか。
 その理由の一つが付加価値という概念の多様性によるものであるような気がしてならないからだ。通常我々が付加価値という言葉を使うときは、「付加価値が高い」などというようにプラスのイメージで使うことが多いが、売買を前提とした製品が一旦商的環境に置かれると、メーカーないし販売業者の立場からは交換価値(価格)そのものである。
 一方の消費者ないし生活者の側から見ると、その商品を消費・使用することによって得られる便益(使用価値)なのである。また、企業経営の成果という側面からは、企業が新たに造り出した価値であると定義されており、この分析で用いた概念はその定義による付加価値を適用しているため、これら3つの概念は同時にイメージしにくい。
 もちろん、これらの3つの概念は、企業経営に必要な費用や利益を賄う価値でるという意味で、質量的には同一のものであることは間違いないのだが、この分析の過程で、「付加価値率に拘る」などという記述があったと思うが、こうした使い方をすると必ずしもプラス面のイメージばかりではないようにも思われる。
 このように、一見捉えどころのない付加価値であるが、マーケティングで言うところの価値の交換をベースに考えれば解かりやすい。すなわち、企業が提供する付加価値は、諸費用や利益などをカバーするに足る価値(付加価値)で、通常目標利益で表されるが、最終的には受け手である消費者やユーザーによって価値が決定される。
 したがって、付加価値率と付加価値生産性がアンバランスであるということは、受け手から厳しい評価を受けた結果と考えるべきであるから、その評価に合わせて価値を修正したものが真の付加価値でなければならない。この分析で提案しているシミュレーションは、その均衡点を探る手法であると考えれば納得できるだろうか。