付加価値率と付加価値生産性にこだわる意図?その3

 以前にこの投稿を通じて、財務状況が悪化し始めている企業の特徴の一つとして、棚卸資産が過剰になっている傾向があることを指摘した覚えがあるが、実はもう一つ特徴があったのである。それは、今回の分析で再三登場している付加価値率が健全企業に対して高いということである。その理由はおよそ以下のようなものではないかと推察される。
 企業は経営革新を怠ると、まず市場競争力が弱まり売上高が減少し始める。財務基盤の脆弱な企業は、借入金の返済財源を一定量確保しておく必要があるため、売上が減少しても利益率を保ちたいという思いが先行し、値下げをしてまで売上を伸ばさなければという思考にブレーキがかかってしまい、守りの姿勢に終始してしまう。
 値下げをして販売促進に努めれば、ある程度は売上を伸ばせる可能性はあるが、付加価値率を引き下げた分を最終的に補えるかと考えると、どうしても消極的にならざるを得ない。つまり、値下げによる売上げ増のメリットが、一定の付加価値率を保ち続けるメリットを上回ることはないと判断した結果なのである。
 こうした傾向は今回の分析にもはっきりと現れており、特に採算割れの企業群の大きな特徴の一つになっている。付加価値生産性が低いのは、付加価値率に拘り過ぎていることが大きな原因の一つであるのとは逆方向を示している。ここでは、付加価値生産性を高めるためには、付加価値率を高めることが不可欠であるという論理誤差が生じている。
 もちろん、この分析結果が示しているように、付加価値はそうした要素も含んでいることは確かだが、相反する面の方がはるかに大きいことも明らかになった。「付加価値:フカカチ」という文言から受ける共通のイメージによって、その二面性の認識が希薄になってしまったことが大きな原因の一つかも知れない。
 付加価値生産性を高めるためには、どのような要素がどのように影響しているのかを見極めるためにも、もう一度分析の結果を見直して欲しいものである。何故ならば、ここで取り上げた4つの指標は、経営活動の結果を集約したもので、経営改善のための糸口であるから、ボタンの掛け違い現象をしっかり認識することが肝要なのである。