付加価値率と付加価値生産性にこだわる意図?その2

 どのような思考プロセスを経て労働分配率を引き下げるかであるが、まず自社の業界における位置づけを把握することが先決である。その際の着眼点としては、従業員1人当り売上高、従業員1人当り付加価値額(付加価値生産性)、従業員1人当り人件費、付加価値率、労働分配率について同業他社との相違をチェックすることである。
 仮に自社が業界平均ないし優良企業よりも、付加価値生産性が劣っているという前提に立てば、他社よりも労働分配率が高いことになるから、その場合は付加価値率が低いことが原因なのか、それとも人件費率が高いのかが把握できる。もし前者に問題があるとすれば、売上の質の問題であり、後者の場合は量の問題である。
 このようにして、問題の根本原因を掘り下げて行く過程を従業員にも理解させれば、問題解決の方向はおのずから定まるものと思われる。すなわち、売上の質の問題であるとすれば、製造工程や原材料の調達などが検討されることになるだろうし、量的な問題であるとすれば、販売促進など販売計画の見直しをしなければならない。
 こうしたノーマルなアプローチの他に、まず、望むべき付加価値生産性から逆算して、これを満足するための労働分配率を算出し、次に人件費率に転化して行くという方法もある。この場合は一見乱暴に見えるかもしれないが、行き着くところは同じなので解かり易い面もあり、課題が短時間で明確になるというメリットもある。
 いずれにしても、売上高という呪縛から完全に逃れた解決は難しいものの、費用の構成という要素も地味ではあるが明らかに介在していることは間違いない。そうした意味では労働分配率と人件費率、付加価値率の位置関係を確認し、辛抱強くシミュレーションを続ければ、かなりの改善策は見つかる可能性は高いものと思われる。
 こうしたプロセスを経て一歩でも改善されれば、質的な面での競争力を高めるチャンスも掴めることになる。多くの中小企業はこの点を見逃している場合が見受けられることから、敢えて、この小技に拘ってきたわけである。納得すれば人は動機づけられ、意外な力を発揮するものであるが、精神論だけでは事態は何も変わらない。