付加価値率と付加価値生産性にこだわる意図?その1

 これまでの分析の主役は、付加価値率と付加価値生産性であり、脇役は人件費率と労働分配率であった。これらの指標は所詮売上高を基礎とするものであるから、その性質は売上高に左右されることは当然であるが、敢えてこれらの指標を取り上げたのは、売上高が伸びなくても何とか効率的な経営で健全性が維持できないものかと考えたからである。
 各種の統計を見るまでもなく、企業規模の大きさはそのまま売上高ばかりではなく、全ての面で効果的かつ効率的に資産を運用しており、中小企業につけ入る隙を与えていないように見えるが、現実にはベンチャー型の優れた企業も存在していることから、そうした企業の特質を探ることで中小企業の拠り所を見つけ出したいと思った。
 このような理由から、「実数」と「率」を対応させその特質を明確にすることにより、小回りの効く経営でも生き残れる余地があることを証明したかったのだが、結果としては売上高という傘から完全に隔離して問題を解決することはできなかった。しかし、「実数」と「率」が対立概念である以上、その指標間の距離の長さを測るこの意義は認められた。
 得られた結論としては、経営活動により獲得した付加価値のうち、人件費に当てられる費用の割合である労働分配率が、とりわけ重要な意味をもっていることが改めて確認されたことである。もちろん、労働分配率も売上高、付加価値率の内数であるから、これらとの関係の深さは拭い去ることはできない性質をもっている。
 多くの経営者はこのことを熟知しているため、売上高が伸びなければ労働分配率を引き下げることができないと考えている節がある。すなわち、そうした一種の脅迫観念から、労働分配率の引き下げをタブー視してきた傾向があるが、それはあまりにも短絡過ぎる考えであり、明らかに誤解であるといわざるを得ない。
 その理由は、付加価値率と人件費率との距離関係からもたらされる情報を見逃しているからである。つまり、少ない売上で必要な付加価値を賄おうとする意識が強すぎ、結果として人件費率を高めてしまったため、労働分配率をも押し上げてしまったのであり、その逆ではないことをより深く踏み込んで分析すべきである。