付加価値生産性を高めるためのシミュレーション

 付加価値率、人件費率、労働分配率の関係はやや複雑で捉えどころがないように見えるが、付加価値生産性との関係では3指標とも相反する性格がある。しかし、3指標同士の関係でみると、付加価値率は人件費率とかなり近い関係にあることもあるが、労働分配率とは常に遠い位置関係にあることが改めて確認された。
 この関係は家族関係になぞらえて考えて見ると解かりやすい。例えば、ここに3人の兄弟がいるとしよう。この3兄弟(付加価値率、人件費率、労働分配率)は、他人(付加価値生産性)に対しては結束して敵対心を燃やすが、兄弟仲は必ずしもよいとは言えず、次男(人件費率)は兄(労働分配率)と弟(付加価値率)との対立の調整役となっている。
 この関係に着目しながら、付加価値生産性を高めるためのシミュレーションを重回帰分析で行ってみよう。まず、製造業の場合の重回帰式は、付加価値生産性=?226.8672×労働分配率+22245.9456という極めて単純な式になる。この式は、労働分配率を1%引き下げれば、227千円付加価値生産性が上がることを意味している。
 次に同様の方法で運輸業の場合を見てみると、付加価値生産性=?153.7165×労働分配率+17165.3049という式になる。数値はことなるものの、基本的には製造業の場合と同じように、付加価値生産性は、表面的には労働分配率のみで説明できる形になっている。つまり、3つの指標の共通性を労働分配率が代表している形である。
 なお、これらの重回帰式の決定係数は、前者が0.9530で後者は0.9022であるから、90%以上の精度であるから十分に活用できる。今度は、卸売業の場合で見てみよう。付加価値生産性=?340.8204×労働分配率?896.3267×付加価値率+1162.8337×人件費率+30969.2128となり、前2者と比べ少し複雑な式となってしまった。
 この重回帰式の決定係数は0.9725であるから、かなり当てはまりはよいことになるが、実際のシミュレーションに活用するのは難しい。つまり、3変数を入れ替える場合は論理的な思考が必要である。例えば、人件費率を1%上げれば、付加価値生産性は1163千円上がるが、労働分配率はこれを大きく上回り上昇することになる。