業種特性の分析?その2

 上記の記述から明らかなように、付加価値生産性を尺度として業種を眺めると、企業の売上高の順位と1人当り付加価値(付加価値生産性)は必ずしも一致しないどころか、明らかな相違があることが認識できる。例えば、鉄鋼や化学などは、規模計売上高では輸送機器には遠く及ばないが、付加価値生産性では逆転している。
 それが業種特性だと一口に言ってしまえばそれまでだが、多用な事業展開をしていることが常識化している現在において、その組み合わせにこそ付加価値生産性の違が秘められているとも考えられる。また、こうした現象は同業種内の規模間にも見られることから、少なくとも、売上高の獲得力=付加価値生産性の大小ではないことは確かである。
 そこでもう一度、付加価値率、人件費率、労働分配率、付加価値生産性の位置づけを確認してみると、付加価値生産性を扇の要にして、左右上方に付加価値率と労働分配率が対座し、その中間付近のやや上方に人件費率が位置している。業種や産地の産業の特性によっては、付加価値率と人件費率がかなり接近している場合がある。
 また、付加価値生産性との距離では、労働分配率が一番遠く次いで人件費率、付加価値率の順に位置している。つまり、扇を半開きにした形が基本型で、場合によれば労働分配率がかなり高めにある場合はあるものの、指標の性質から上下関係が逆転する場合はありえない。つまり、労働分配率は常に付加価値生産性とは遠い位置にある。
 したがって、付加価値生産性を高めることに目的を絞るとすれば、労働分配率を引き下げればよいことになるので、とりあえず数字の上で引き下げてシミュレーションするのも無駄なことではない。むしろそうした試みにより、人件費率や付加価値率にどのような変化を与えるかも測定できるというメリットもある。
 また、それらの指標の示す意味もビジュアルに認識できることになり、経営改善の端緒ともなりえる可能性がある。例えば、どのようなシミュレーションによっても、合理的に労働分配率を縮めることが不可能であるという結果になったとしても、異分野への転身や業態開発により、改善を図る可能性は残されているはずである。