中小企業の合理化投資

 中小企業がIT化に遅れたのは、決して怠慢によるものではなく、中小企業性分野の特徴をよく心得ていたため、大企業との棲み分けを選択した結果でることを説明してきたが、もちろん別の見方もある。つまり、低生産性業種に属していたため、資本の充実度が低く積極的に合理化投資ができなかった可能性も否定できない。
 しかし、こうしたことが大きな理由であれば、それほど多額な投資を伴わなくても、かなり充実したシステムを構築できる環境が整ってきている。したがって、中小企業においても、何らかの形ではIT化は推進されることは期待されるが、業種特性からいって、取引先との関係整備が遅れている場合は多少時間が必要かもしれない。
 ただし、不特定多数の顧客を対象とした業種の場合は、ITの活用範囲ないし応用範囲は広いので、単一の企業でも取り組むメリットは大きい。この場合は、業務の効率化よりもマーケティングに活用する方向が主流になるものと思われるが、これには分析力がものをいうので、人材の確保・育成が不可欠な条件である。
 ここで一つ確認しておかなければならないことがある。それは、合理化投資を行う場合の基本的な狙いを明確にしておく必要があるということである。中小企業が業務の合理化を目指す場合は、その狙いは付加価値生産性の向上にあることになるから、場合によっては中小企業からの脱皮を目指すということにもなる。
 企業の置かれている立場や体質などを勘案すれば、大企業への飛躍を目指すのも個別企業としては不自然なことではない。しかし、もしも合理化には成功したが売上高や付加価値率に変化がなく、付加価値生産性のみが向上したという場合は、人員に余剰が生じてしまうことも織り込んで計画を推進しなければならないことになる。
 つまり、中途半端な形で合理化投資に取り組むと、償却力不足が顕在化してしまい、現在多くの企業が苦しんできた形に逆戻りすることになりかねない。したがって、中小企業が目指すべき投資は、市場を創造するためのリサーチに有効であること、インターネットなどの既存のインフラを十分活用できるものであることなどが条件となる。