中小企業性分野を奪還しよう?その2

 ここでいう中小企業性分野とは、中小企業分野調整法{中小企業の事業活動の機会の確保のための大企業者の事業活動の調整に関する法律(昭和52年9月施行、同58年12月改正)}や中小企業支援法の定義によるものではなく、伝統的に中小企業が得意としてきた分野の業種全般をさしているもので、従業員規模や資本金額で規定しているわけではない。
 もっとも、こうした法律に基づいた定義も今や有名無実と化し、かつての様な棲み分けが見られなくなったのも事実であるから、それほど意識する必要はなくなったのかもしれないが、中小という概念は厳然と存在し続けている以上、この分野を何らかの形でガードすることが、健全で円満な市場構造を維持する上で必要なことである。
 本来自由競争とはそうした相手を気遣うことによって、自然発生的に不文律が形成されたもので、これをやすやすと踏みにじることは許されるべきではない。しかし、中小企業者としても、永続的な庇護の下で胡坐をかき続けることは、資源を食い潰すことになるので、それなりの役割を果たさなければならないのは当然である。
 経営資源の豊富さが求められる大企業分野では、IT化などに積極的に取り組むことで付加価値生産性を高める。そこでは総付加価値額占める構成要素のうち、巨額の資金を要するのが設備投資や運転資金であるため、租税公課、減価償却費、賃借料、金利などが大きくなるはずであるし、配当性向を高めるため利益も多めに獲得しなければならない。
 一方の中小企業性分野では、総付加価値額の増大を目指すのは同じとしても、付加価値生産性が低いことが構造上やむを得ないので、総人件費を膨らませることで付加価値率を高めることになる。こうした両者の特徴は、そのまま棲み分けの構造を作り出し、お互いに尊重することになるばかりか、海外からの攻撃に対しても打たれ強いものになる。
 もっと具体的に言うと、大企業は国際競争力を高めるためにも、付加価値生産性を高水準に保つことが不可欠であるから、この構造を壊してまで中小企業性分野にまで攻め入るメリットがなくなるわけである。中小企業はその逆で付加価値生産性を高めるために敢えて大企業性分野に踏み込むのはリスクが大きいことになる。