宝の山は手掘りで丁寧に

 景気は緩やかではあるが上昇傾向にあるといわれるが、庶民にはそうした実感がないのも事実であるようだ。私が関与している中小企業のおよそ70%が売上の低迷にあえいでおり、中にはバブル期の25%程度に落ち込んでいる場合もあるなど、景気の回復を実感できる材料が乏しいと言う声が多くの経営者から聞こえてくる。
 その一方で売上を着実に伸ばしている企業も結構ある。こうした企業の経営者に言わせると、景気の回復により設備投資が着実に伸びているためと分析している。この違いは景気の影響というより企業のポジションの問題のようにも感じられ、時流に乗ることの難しさを改めて思い知らされたような気がしている。
 この二極化傾向が生じた源流は、やはりIT化による合理化投資にあるようだ。というのは、いわゆる戦略パターンを見ると、定型的で合理化に適した業務をITによって代替することに成功したため、付加価値生産性を大幅に向上させたばかりか、従来中小企業と棲み分けしていた分野にまで踏み入ったのである。
 果たせるかな、労働集約型でIT化に馴染みのうすい分野を受け持っている中小企業は、パイを奪われてしまったことで意気消沈し、合理化の予算も気力も減退してしまったのである。その結果、過剰な労働力と縮小した市場が跡に残されため、努力の報われないワーキングプアの出現に繋がったのではないだろうか。
 勝ち組に言わせれば、これも経営戦略のうちで負けたものは努力が足りないのだ、というかも知れないが、競争相手の戦力を根こそぎもぎ取ってしまっては、戦う相手がいなくなってしまうわけだから、次は自分が蹴落とされる相手に選ばれてしまうことになる。敵に塩を贈るのは闘い相手を大切にすることで、自分を鍛える励みにしている。
 さて、中小企業も嘆いているだけでは芸がない。これまで蓄積された預貯金に退職金を積み増しした団塊の世代に対して、良質な労働力として優遇する姿勢を示せば、企業に対する求心力を高めることは可能である。そうすれば安定した市場を背景に、小ロットではあるが付加価値の高い製品づくりにじっくり取り組むことができる。