付加価値生産性の低さを武器にする戦略

 ITが馴染みやすい分野は比較的定型的な業務であるため、省力化が急激に進行している。したがって、そうした分野を多く抱える企業は人員削減または業務の拡大が可能になったため、付加価値生産性は格段に進展したが、非定形的で標準化の難しい知的業務や、ITがなじまない業務では付加価値生産性がそれほど向上しなかった。
 これが二極化した原因であるとすれば、労働集約型の非製造業やサービス業などは、今後も急激な改善はのぞめそうもない。つまり、これらの産業群は、IT化に遅れているのではなく、もともと馴染まない性質であるため、現状に止まっているものであり、いわば業務の性質によるものであるから、一律に評価すべきものではないように思われる。
 将来的には何らかの形でIT技術が活用されるとしても、人的な労働が主力である分野は存在し続けるものと思われる。例えば、医療業務などの周辺分野はIT化により、合理化が進んでいるが、高度な診療技術は医師の力量に委ねられているし、家事や自動車の運転などは、人手に頼らざるを得ないなどである。
 遅れていることと性質が異なることを同列で評価するのは無意味であるし、付加価値生産性が低いからといって、投下資本に対する利益率が引いとは限らないことに着目すべきである。例えば、卸売業は一般的に言って他の業種より付加価値生産性も総利益率も低いが、最終的な総資本利益率は決して低くないからである。
 中小企業は、定年退職者を戦力化することで、この豊富な労働力を活用して付加価値生産性は低いが、付加価値額ないし付加価値率を最大にする仕組みを構築できれば、大企業の参入も阻止できるし、長期的に安定した利益を確保できる可能性が高まる。特に、今後はこうした分野は有望でサービスを付加した製品開発は活発化することが期待される。
 住居のリフォームや清掃などの家事代行、セキュリティ等々生活関連の代行業務は、現在でも市や町のシルバー人材センターがカバーしているが、ビジネスチャンスとして捉えていない。モノの豊かさが一巡した今日、ゆったりした生活空間で充実した時間を過ごしたい、そうした生活シーンにこそ合理性では測れない付加価値が潜んでいる。