所得格差の是正に高齢者が一役買う

 所得格差が生じたメカニズムは未だ解明されていないような気がしている。説明の材料としてよく用いられるのは、IT投資への取り組み姿勢による格差であるが、これは、企業間の付加価値生産性格差が生じている理由は説明できても、個別の労働者の所得格差を直接説明する根拠としては説得力が薄いのではないだろうか。
 第一現在生じている所得格差は、ワーキングプアなどの言葉に代表されるように、元々低所得層に属する階層で生じているわけであるから、一握りのIT技術者とは別の労働市場での出来事である。たしかに、景気は拡大基調にあるといいながら、全体のパイは一向に拡大しないところを見ると、存立基盤を冒された形跡はないわけではない。
 一方、相変わらず景気回復に格差是正を求める意見も多いが、バブル期の再来を期待するのは方向違いである。もう一つ挙げるとすれば、政策のひずみによる再配分の問題であるが、これには税制や保険制度などの改正に期待するほかない。現時点では、いずれの説が本命なのかは判別できないが、何らかの関連性をもっていることは確かである。
 そこで提案だが、こうした状況は一挙に解決するのは難しいかもしれないが、次の2つの点で高齢者(団塊の世代)は協力できるのではないだろうか。一つは、第一線を退くことで、自動的に若年層が得意とするIT関連の職場を提供するであり、二つ目は、自分の意思で財布の紐を少し緩めることで景気を呼び込むことである。
 第一の点は、自然体に任せることで実現するが、第二点の景気を呼び込むために貯蓄を取りくずという気持ちになることは結構難しい。これを実現させるためには、資産効果が明確に認識できなければならないから、自分の望むライフスタイルを強烈にアピールすることで、製品(サービス)開発の方向を企業に対して示唆する。
 つまり、比較的裕福な団塊の世代の人々が、夫々の生き方をある種の記号化を通じてシグナルを出すことで、企業はそのマーケットサイズを推定し、製品開発や研究開発のための投資をし、同時に高齢者の雇用機会を創出するよう誘導するのである。企業がこれを受け止めることが、資産効果がはたらく土壌づくりの第一歩となる。