既存の製品・市場は成熟化しており、経営資源も劣っているといった場合

 この状態から想像される姿は廃業や内整理である。実際にそうした現実に直面している中小企業者も多いことは事実である。例えば、建設業関連の建具やタイルなどは、独立した業種として存続が危ぶまれている。建具はサッシュに取って代わられ、住宅の浴室はユニットバスが定番になってしまったなどである。
 しかし、だからといって、建具もタイルも姿を消してしまったわけではなく、仕向け先や工法が変わっただけで、その存在感は未だに色あせていない。こうした変化は、製造業だけのものではなく、流通業でもよく見かける風景である。例えば、乾物屋とか金物屋などはどうだろう。業種としては影が薄れても、卵も鍋も相変わらずどこが売っている。
 こうした変化は中小企業だけに集中して起こっている現象ではない。例えば、かつてのスーパーマーケットでは花形商品であった、家電製品や家具などは殆ど姿を消し、コーナーが存続していたとしても寂しい限りである。この移り気の仕掛け人は製造業者や販売業者ではなく、消費者ないし生活者の心理の反映なのである。
 このように考えると、既存の製品・市場は成熟化しており、経営資源も劣っているといことは、とりもなおさず企業のわがままが招いたものとも言える。つまり、顕在化した表面的なニーズにのみ着目して、その根底にある満たされないニーズを見逃していたため、目聡い他企業の餌食になってしまったということである。
 この変化に気づかなかった責任は経営者にあるとしても、何等かの進言ぐらいは従業員にもできたはずなのに、ただ上の顔色を窺うことに終始し、市場が発するサインに目もくれなかった罪みはベテラン社員にもないわけではない。今こそこうした過去の姿勢を謙虚に反省し、経営革新に取り組むべきではないだろうか。
 この場合の経営革新とは、必ずしもITなどの技術革新や新製品開発を意味するものではなく、市場ニーズ対応型の組織に変身することである。その必要性もそのためのノウハウもベテラン社員である高齢者の胸のうちにあるはずである。再雇用制度を打ち出す前に経営戦略再構築についてじっくり話し合う機会を設けるべきである。