既存の市場は魅力的であるが、経営資源は劣っているといった場合

 経営資源が劣っているというのであれば、既存の市場が如何に魅力的であっても、まともに競争するのは無意味であるから、経営資源を新たに振り向ける分野を選択するのがセオリーではあるが、その場合でもリスクが大きいという状況にあるのであれば、フォロワー型の戦略を徹底して遂行することで活路を見出すのも悪くない。
 その場合は、高齢者の活用を効果的に行うことで、保守的な低所得層をターゲットにする戦略が展開できる。視点を変えれば市場細分化戦略と位置づけることもできるので、全体市場が成熟期にあるときなどは、低価格政策や労働集約型製品で差別化を図れば、ニッチャー型としても存在感をアピールできる可能性がある。
 どの戦略を選択するにしても、高齢者の活用が成功の鍵となるので、積極的に再雇用制度などを整備し、各種助成金制度や優遇措置を活用できる体制を整えるべきである。つまり、企業が新たに作り出した付加価値のうち、60?80%を占める人件費を実質的に圧縮することで、リーダー型では実現不可能なローコストオペレーションを確立するのである。
 この戦略は既に数年前から大手のサービス業などで採用してが、ヒントとなったのは各種助成金の活用などで、労働分配率や人件費比率の引き下げを実現した製造業の成功に学んだのである。国の政策としても経過措置的で、高齢者の再雇用を促す呼び水的政策ではあるが、この機微を逃さない企業のドライな側面が透けて見える。
 弱者の戦略を手助けするために採られた政策が、このようにいつも大企業を支援する結果を招いてしまうのは残念である。中小企業はもっと積極的に国の施策を活用すべきなのに、何故踏み切れないのかと考えると、それは多分、助成金などにより軽減されたコストのメリットを価格競争力の強化に繋げられないと判断しているからである。
 付加価値構成要素の構成比の中で、総人件費の占める割合は抜群に高いことは前述の通りであり、他の要素に変化がないことを前提にすれば、この比率が減少すると利益が増大することは明らかであるのに、このような消極的な意思決定(不作為)によって機会損失を生じさせてしまった経営責任は大きいといわざるを得ない。