製品・市場ともに成熟化しているが、経営資源は中程度であるといった場合?その2

 元々経営に関する意思決定は、解のない方程式を解くようなもので、未知数の数より式の数が少ないので解けないのである。つまり、経営の意思決定においては、数学でいうX、Y、Zといった未知数(変数)は何一つとして固定されたものとして与えられていない(方程式は解けない)のであるから、情報を加工して推定する以外にない。
 その点装置型産業などの寡占型大企業は、総需要とシェアという最も肝心な数値を掌握できる立場にあるから、売上や利益などを目的変数とした方程式が簡単に解けるので、経営の意思決定は中小企業に比べてかなり見通しのよいものになる。このように考えると、中小企業の意思決定は、かなりの眼力も必要であると言わなければならない。
 すなわち、中小企業の場合は、所与として示される数値は全くないわけであるから、独自の方法でより確実性の高い数値(例えば市場規模、競合企業のシェアなど)をできるだけ客観的に捉え、これを拠り所にして方程式を解き、このときの誤差を最小にするようにシミュレーションを繰り返さなければならない。
 ITを活用した分析技術もたしかに必要ではあるが、市場の変化を見極める眼力がなければ、変化の要因となっている変数を選択することができない。着実に成長を続けている企業には、経験則に裏打ちされたモデルが構築されているが、この経験こそが経営者を長年サポートしてきたベテラン社員の暗黙知である。
 こうした企業では、高年齢者雇用安定法による義務化とは無関係に、ベテラン社員のノウハウを高く買っているため、定年延長どころか役員として取り立てていることも珍しくはない。高齢者の再雇用に対して消極的な企業との差はこの辺にあると思われるが、現実に能力が認められないのであれば、処遇面などで調整するのはやむを得ないであろう。
 さて、新分野への進出問題であるが、これまでの論述から容易に推察されると思うが、現実には三つ目の安全策を選択せざるを得ないが、その場合は具体的にどのように考えたらよいのだろうか。キーワードは、「既存の製品あるいは市場と何らかの関連のある分野」である。ここで徐々に力をつけて経営資源を蓄積するしかない。