市場は拡大傾向にあるが、経営資源は中程度であるといった場合

 市場は拡大傾向にあるとはいっても、トータルの経営資源がそれほど大きくないのであれば、全方位的戦略をとるとリーダー型企業の餌食になってしまう虞があるので、とり得る戦略は特定の製品に特化した市場細分化戦略か、製品差別化戦略が基本的な方向となるだろうから、技術力や情報収集力、これらを担う人材力の強化が課題となる。
 どちらかというとITなどの技術革新に対して後ろ向きである高齢者は、第一線の戦力になりにくいと考えられているため、継続雇用制度を導入するにしてもハードルが高いものになるケースが多いが、企業側としても高齢者イコール無能力者と考えているわけではないので、有用な人材は年齢に関係なく雇用する姿勢はもっているようだ。
 この辺の意識調査を何度か行った結果を見ると、体力・気力が充実している高齢者は積極的に雇用したいと考えている一方、ITなどの技術力の強化が必要で、かつそれは高齢者自身の自助努力で行うべきだと企業側は答えている。ここに大きな溝があり、経営者の論理と従業員側の考え方の相違が浮き彫りにされている。
 これを噛み砕いて要約すると、企業側は高齢であるということには直接拘らないが、職務遂行上必要な技術や知識が備わっていることが絶対条件で、これを備える(強化する)ための教育・訓練などに費用を拠出することには消極的である。つまり、教育・訓練まで行って高齢者を継続して雇用するのは負担が大きすぎると考えていることになる。
 多くの中小企業では、かなりの温度差はあるものの、継続雇用制度としてはこうしたスタンスを明確にしたものが多く、高齢者の能力増強を自社で行うことを前提にした再雇用制度は殆どないようだ。これはずばり言って、現在のところ買い手市場であるため、若年者の採用を控えてまで高齢者を雇用する気になれないというのが実情であるようだ。
 一方では技術者の社外流出を危惧しながら、他方では法律の要求水準をクリアできれば足りると考える姿は、いかにも近視眼的でドライな考え方である。雇用は所得を一方的に保証することだけに意義あるわけではなく、企業の維持発展の原動力として不可欠なばかりか、最も身近で良質な顧客であることを忘れてはならない。