現在の市場・製品ともに成熟化しているが、経営資源には余裕がある企業の場合

 こうした状態にある企業は、早晩既存製品を他の市場に振り向けるという市場開拓を志向するか、あるいは製品開発により現在の市場をよみがえらせるかを迫られているという構図である。そこでは当然現在余裕のある経営資源を有効に活用できる、製品・市場に焦点を当てた戦略を選択することになるものと思われる。 
 このようにいわゆる多角化を志向する場合、どの分野への進出を目指すかによって、経営資源のシナジー効果(相乗効果)が生かせる度合いが違ってくるため、ノウハウや製造技術などについては共通資源である資金とは異なり、限定的であることも多いかもしれないが、経営管理などのマネジメントシステムはそのまま活かされる。
 問題はトップの決断を現場がどのように受け止めるかであり、下手をするとモラールの低下を招いてしまうという例も見られる。特に技術革新の受け入れを伴う場合は、消極的になりがちな高齢者をどのようにして意識転換を促すかは、かなり頭を悩ます問題となることもあり、定年延長などには消極的にならざるを得ないようだ。
 しかし、これは目の前の状況をどう解決するかという、差し迫った問題として捉えた場合のことであり、それまで蓄積されてきた企業文化が環境変化に対して柔軟なものであれば、高齢者にとっても衝撃は比較的少ないようである。現にこうした変化にうまく適応でき、新分野への進出を成功させた企業も数多く存在するからである。
 この違いは企業文化だけでは説明できないものであるのは当然だが、トップが高齢者を戦力化することに前向きであるどうかも重要な要件の一つである。つまり、高齢者自身が人材とみなされていないと悟った時、緊張感が一気になくなりリタイヤを決意したという例もあるくらいなので、労働意欲の変化にも気配りする必要がある。
 しかし、企業の現状からすると、リスクを避けたいと思うのももっともなことなので、そうした事情にも配慮した高齢者雇用システムを開発するとすれば、とりあえず、現状での能力レベルと雇用形態を組み合わせて、給与や雇用条件を木目細かく設定するといった制度から出発し徐々に定年制度に高めていくことが現実的対応である。