現在の市場は魅力があり、経営資源は豊富である企業の場合

 自社がマーケティングを展開している市場が魅力的であるということは、別の言い方をすれば、自社の対応力を活かすのに適当な市場であるということなので、人材力や生産設備などが有効に活用できる可能性が高い場合である。業種によってもその評価は異なるものと思われるが、将来に向けての人材開発投資は必ず必要となる。
 最も、近年の風潮を見ると、かつてのように生え抜きの人材を育成して投入するよりも、ヘッドハンティングなどにより、最適な人材を引き抜くことの方が手っ取り早く、費用対効果の面からいっても効率的だといわんばかりの対応も多いが、長期的な視点で企業の使命を貫く姿勢からはいささか逸脱している面も感じられる。
 トータルの経済効果を定規として評価するのであれば、こうした戦略もありえることは否定できないが、高齢者が40%以上を占める社会が現実のものとなってきた現在、企業の社会的責任は、高齢者を戦力として活用することにより市場を拡大するといった、循環型社会を構築することを中核に据えなければ果たすことができない。
 長期的展望に立てば、現在の良質な市場もやがては終焉の時を迎えるのが社会のならいであり、若年者市場の魅力度もまた同じである。そうした意味から考えても、市場の主役に躍り出る高齢者を見方につける戦略は、当然視野に入れておくべきであるから、場当たり的で理念の乏しい再雇用制度ではなく定年延長を考えるべきである。
 中小企業の経営者の中には、年々1年ずつ雇用期間を延長したとしても、雇用の場が確保されることに変わりはないので、別に定年延長に拘る必要はないと考えている人も多いが、やる気を引き出すための対応としては、いただけないような気がしてならない。これは高齢従業員を人材としては評価できないという人間観の現れである。
 高齢者を主役に据えた人事システムは、高齢者を甘やかすということを意味しているのではなく、高齢者とか若年者という現時点での自分のポジションから人間を眺めて評価するのではなく、同じ人間のラスフステージに応じた就労システムという、人間の尊厳をベースとした発想であることを重く受け止めるべきであるという意味である。