製品開発の面から見た顧客機能の拡大

 これまでは主として定年延長などの措置を講じることで、安定した所得を保証することを中心に話を進めてきたが、顧客機能を充実・拡大する方法は他にもある。例えば、上述の統計で見たように、高齢世帯では健康や医療に対する出費が多いわけだから、この分野の支出をトータルで軽減する商品を開発することがまず考えられる。
 具体的には、ゼネリック医薬品の普及活動やより一層の低コスト生産、健康食品の開発、生活スタイル改善サービスの提供、低料金の旅行パック、安心安全なリフォーム・サービス、ベテランによる子育支援チームの結成、小ロットで巡回型のパートタイマー、バリアフリー設計アドバイザー、その他種々のものが考えられる。
 特に核家族化が進行している今日、多くの悲劇を見るにつけ、地域のコミュニケーションの欠如が根底にあるような気がしてならない。これからは、行政に対して過大に依存するのではなく、地域社会に根ざした独自の仕組みを編みだして、サービス商品として確立し、売り出すことだってあながち夢ではない。
 サービスは在庫ができない上、人によって提供するサービスに対する価値判断が異なるため、潜在的にトラブルを抱えている。こうしたことを熟知しているため、ちょっとしたリフォームを頼もうと思っても、二の足を踏むという高齢世帯は多いのではないだろうか。逆に言えば潜在需要はかなりあると見ることができるわけである。
 こうした発想で製品開発に努めれば、結果的に良質で低価格の製品(サービス商品も含めて)が社会に送り出されることになり、仮に所得が増えなくても、手持ち資金が有効に使われるので、顧客機能が拡大したのと同じ効果がある。ましてや、高齢者がその開発者や提供者になるのだから、技あり2つ合わせて1本にもなり得る。
 これらのアイデアは誰でも思いつく可能性があり、取り立てて話題にする価値があるとは思えないが、現実に日の目を見ていないのも事実である。であるからこそ、崇高な企業家精神をもった経営者の登場が待たれるわけで、どんなに優れた素材でも、これを加工して付加価値をつけ、商的環境におかなければ永久に売れることはない。