高齢者を雇用すると本当に生産性は低下するのか

 高齢社会を長寿社会として丸ごと受け入れるスタンスからすれば、高齢者が就労することにより生産性が低下するかどうかなど特に問題にする必要はないわけだが、地球規模でのグローバルな競争力という点から点検してみることも意義ある。これまで高齢者の雇用を頑なに拒んできた本当の理由とともに再点検して見たい。
 一般的に言われてきた高齢者雇用のデメリットは、「ITなどの新技術への対応力不足」、「過去の経験に固執する」、「高齢者の機能・体力の減退による生産性の低下」などが主なものであった。その他にも色々いわれていたが、工夫次第でいかようにもクリアできるものばかりで、今となっては単なる食わず嫌いに過ぎなかったことばかりであった。
 ここにあげた「ITなどの新技術への対応力不足」なども生産性の低下をまことしやかに説明するもので、技術革新に対して本当に対応力が不足していたのかどうか疑問であり、むしろ、自分も含めた社会全体がそうしたムードを作り出して掻ぎ立てたため、挑戦意欲が減退してしまったもので、事実無根と言わざるを得ない。
 また、「過去の経験に固執する」に至っては、マイナーに捉えるべきではなく、歴史の生き証人としての経験を尊重することこそ、「モノづくり日本」の基本中の基本であり、この安全装置を無駄にしてはならない。2007年問題(団塊の世代の定年退職)が話題になるなど、遅ればせながら事の重大さに気がついてきたようである。
 たっぷり溜め込んだお金と知恵を社会に振舞うのか、それとも懐に抱いたまま、表舞台からリタイヤするかは、長寿社会をどのように受け止めるかによって違ってくる。そろそろ歓迎モードに切り替えなければ、遺産欲しさの下心が見透かされてしまい、お金も技術も知恵も出し惜しみされてしまうことが危惧される。
 もともと生産性とは、企業の総合力が反映されたものであり、個人の能力レベルのみを評価する指標ではない。したがって、高齢者を雇用すると生産性が低下するなどという論拠は元々どこにもないわけある。もしあるとすれば、自分が第一線の戦力として認められつつ活用されていると高齢者が実感できない場合である。