顧客機能を充実させる多用な側面

 顧客機能とはいってみれば購買力のことであるから、これを充実させるためには、直接的には所得を増やすことが一番であるが、間接的には価格を引き下げる、割賦販売制度を充実させる、ネット販売などの販売チャネルを整備・拡充するなど多用なものが考えられるから、高齢社会においても自社の経営資源を投入できる機会は必ず見つけられる。
 要は、どのような視点で市場性を見出すかであり、マクロ的にシルバーマーケットとして捉えただけでは市場競争で生き残るのは難しいが、中小企業が得意とする草の根レベルでの活動が、高齢者の心に届くものであれば、間接的ではあっても顧客機能を充実させるに足る分野も数多く存在すると考えられる。
 例えば、環境問題やリサイクル、セキュリティなどに関して、中小企業ならではの貢献も数多い。エコファンドが商品としてデビューした当時は誰も見向きもしなかったが、今では真価が認知され市場に定着しているし、バリアフリー製品なども次々に登場しているなど、顧客機能を側面から引き出している傾向も見られる。
 団塊の世代に限ったことではないが、最近の高齢者は都市機能が充実した空間に居住することを望んでいる傾向が窺われる。核家族化が進行していること無関係ではないかもしれないが、安全で静かな老後を理想としながらも、何らかの形で人と関わっていたいという心理の現われでもあるかも知れない。アーバンリゾートなる言葉もこの象徴である。
 また、一方では、都会を離れ農業に携わる余生を選択する人もあるなど、多用な価値観が錯綜する現代社会は、見方によってはニーズの宝庫とでも言うべき社会である。しかし、一方では社会の隅々にまで商品がいきわたり、他方では、新製品の開発が待たれるといった状況下では、自社の特技を思い切って投入する市場を見つけ出すのも骨が折れる。
 だからこそ、小回りがきく中小企業の対応力が活かせるチャンスだともいえる。一網打尽を得意とする大企業は、固定的で大規模な市場の存在を前提としている。その点、身軽で小回りが効く中小企業は、負荷のかからない市場戦略を展開しやすいから、高齢者の多様で小ロットのニーズにも着実に応えられる潜在力をもっている。