費用分解の限界を知る?その2

上記の分析では、売上高と仕入原価、売上高と総利益、仕入原価と総利益の相関係数がいずれも0.96以上であることから、売上総利益と販売費および管理費との相関も相当に高いことはうなずけるが、営業利益との相関を見ると売上高、仕入原価、総利益ともに0.54?0.67でそれほど高くはないのはどういうわけだろうか。
 これらの関係を整理してみると、変動費である仕入原価は文字通り売上高の裏づけであり、販売費および管理費は総利益(付加価値)をつくりだす原動力であると同時に、その総付加価値の内数である営業利益を縮小させてしまう要素を含んでいるキイ的費用でもあることを意味しているものと推察される。
 このことは営業利益と給与との相関係数が殆ど0に近いことや従業員数との相関係数が若干ではあるがマイナスであることからも窺われるほか、他の全ての費用との相関が低いことなども総利益と営業利益の関係の複雑さを物語っているが、いずれにしても、何を目的変数に据えるかによって、変動費的要素と固定費的要素を振り分ける必要がある。
 もちろん、企業が付加価値や利益を生み出す要因は、変動費や固定費などの費用的側面のみでは説明できない。情報収集・加工能力などのインフラや企業文化なども大きく作用していることは確かであり、これらが費用支出と融合して企業のナレッジとなり機能することで形成されるものであるから、費用の分解だけでは対応しきれない。
 しかし、翻って考えてみると、企業のインフラや文化も元々は人間が築き上げたものであるから、従業員のヤルキの蓄積が元祖である。そのヤルキの源に給与などの人件費が大きく関わっているとすれば、変動費であれ固定費であれ、従業員のヤルキを引き出す費用配分は企業の利益計画にはやはり重要な位置を占めているという理論に回帰する。
 最後に、誤解がないように申し添えるが、これまでの議論では固定費を変動費化することの意義を利益計画のテーマとしてきたが、それは、雇用の安定を阻害する概念ではないことを強調したいのである。すなわち、最近の中小企業体質に思いをはせる時、「雇用の安定はまず企業の安定から」という積もりでの議論であったことをご理解願いたい。