費用分解の限界を知る?その1

前述の最小二乗法を用いればどんな費用でも変動費と固定費に分解できる。しかし、売上高と費用との対応関係をスキャタグラフ法で描いてみると、費用が円に近い形に分散しているようなときは、当然両者の間の相関関係は薄いと推定されるので、費用を分解する意味がないから、この場合の費用は全て固定費ということになる。
 その限界をどこに求めるかは分析者が任意に決めることで、特別な決まりというものはないが、一般的にいって相関係数が0.7程度以上であればある程度相関があると判断してまちがいなさそうだ。というのも、前述のように典型的な変動費である仕入原価や直接材料でも固定的資本になの部分もあるので、100%比例関係にない場合もあるからである。
 ある商社のデータを解析した結果、売上高と仕入原価の相関係数は0.9988で100%変動費ではなかった。また、支払運賃や支払手数料は相関係数がマイナス0.5程度であるという結果も興味深い。更に、水道光熱費、営業外費用なども若干ではあるがマイナスの相関があることが判明したが、残念ながらここではその原因を述べるわけにはいかない。
 そのほかの特徴としては、販売費との相関係数は0.8283であるのに対して、管理費とは0.9049と高いことである。つまり、管理費の方が販売費よりも売上を獲得するのに販売費より寄与していることになるということになる。こうした現象は、これまでの固定費の概念(管理費は固定費)を根底から覆すものとなった。
 つまり、この企業では、販売員よりもむしろ管理者が売上実現の原動力となっていることが窺われる結果を表している。これまでのところ、トップにはそうした認識はなかったということであるが、従業員数との相関係数が0.4639と低いことも合わせて考えると、これを裏づけていることを認めざるを得ない。
 この事例にみるまでもなく、固定的概念により伝統的な費用分解手法を機械的に繰り返しているだけでは、企業にとって真の働き手は誰かさえ見えにくくしてしまう。ましてや、変動費でも固定費でもない費用が存在していたことは、無駄遣いそのものでCSR(企業の社会的責任)の精神にも悖る行為といわざるを得ない。