雨が降らないうちに傘をさすしたたかさ

本稿の目的は、倒産の危機に瀕している企業を救済する手立てを考えるのが主な目的ではないが、企業価値を最大限に評価する機能がないため、一方的に実態貸借対照表が策定され、経営者の再建意欲が一瞬にして萎えてしまうというケースを見るにつけ、潜在的な付加価値まで奪ってしまうことに憤りを感じている。
 経営を倒産状態に導いたのは、経営者の責任であることは当然であるが、社会的存在である企業の価値は、それまで積み上げてきた技術やノウハウなどソフトな経営資源も含まれているのに、これらを殆ど無価値にしてしまうことは、自業自得とばかりいえない社会的損失を生むことも考慮する必要があるように思われる。
 しかし、このような嘆きは、所詮ゴマメの歯軋りに過ぎないとすれば、こうした現実を見据えた上で、企業経営に当たらなければ決して勝ち組に名を連ねることはできない。「勝てば官軍、負ければ賊軍」という構図のうえでゲームを展開せざるを得ないのであれば、せめて「負けない仕組みづくり」を探求することで企業を応援したいと考えたからだ。
 そのために少し回り道をして倒産の要因に言及したものであり、本旨はあくまでも中小企業に対し、熱いメッセージを送り続けることにあることをご理解いただきたい。付加価値と付加価値率に着目した理由もそこにあるわけで、物量に物を言わせる大企業に対して、限られた経営資源を無駄にしない戦略のヒントのつもりなのである。
 私事で恐縮だが、ある運送会社が倒産したときのことである。経営者は何とか建て直しを図るべく奔走したが、力尽き自己破産を申請するしかないと決意したが、債権者のきつい攻めに屈して車両や重機を手放さざるを得なくなってしまったが、そのときの換金価格は、帳簿価格の十分の一以下になってしまった。
 今にして思えば、それほどの債務超過ではなかったので、付加価値額と付加価値率を債権者に明確に示すことができれば、双方の損失は最小限にくい止めることができたのではないかと悔やまれる。リスケジュールが認められ再出発できた例との違いは、結局のところこの2つの指標をベースに企業価値を説明できたかどうかであった。