定点観測で信号を見落とさないように

これまで5回にわたり財務リスクに陥った企業を紹介してきた。付加価値率はそれほど低くないのに、売上高にこだわりすぎて、付加価値の構成が不適格なため、営業利益がマイナスになっている建設関連業のA社、適正な付加価値率、付加価値額が確保できる改善が実現できたのに、手遅れとなってしまった水産加工食品製造業のA社は残念であった。
 また、自社ブランドに拘りすぎて、良好な販売チャネルを活かしきれなかった生鮮食品製造業のS社も救済する価値はあったと思われるが、リーダーが不在だったため決断を先送りにしてきたことが致命傷になってしまった。多くの企業が売上げの低下に悩んでいる光景を見るにつけ返す返すもったいない思いである。
 一方の窯業・土石関連製造業のS社は、M&Aや営業譲渡という選択肢を拒み続け、企業価値を益々劣化させていった責任は重大である。社会的存在である企業は、その価値に相応しい健全な経営が実施され、良質な付加価値を生み出すことが使命であるはずなのに、ステークホルダーの信託に応えようとしていない。
 遠洋漁業のM社などは、信号無視で暴走している車に等しい乱脈経営と言わざるを得ない。引くも地獄、進むも地獄という進退窮まった状況にあったことは理解できるが、最高責任者である経営者は、撤退のタイミングを見極めることは最小限度必要である。成り行きに任せた経営を継続することは傷口を広げるだけである。
 この5つの事例は、それぞれ業種や規模も異なるが、共通しているのは意思決定のタイミングの遅さである。しかし、経営の意思決定は、単純ではないので単に遅いと決めつけることはできないが、それだけに普段から自分なりの定点を設定しておき、その変化を意思決定のサインとする心構えが求められる。
 その最も簡便で確実な方法が、ここで取り上げた付加価値額と付加価値生産性である。もちろん、他の指標も必要ではあるが、あまり多すぎると返って戸惑ってしまい、意思決定を遅らせてしまう虞があるので、まず、この2つの指標から大枠のポジションを掴み、態勢の入れ替えや転換などの大方針を決定する事を薦めたい。