過剰な設備投資が招いた経営破綻への道

窯業・土石関連製造業のS社の売上高対付加価値率は、人件費率:62.7%(前期:36.6%)、減価償却費率:10.2%(前期:5.9%)、租税公課率:3.9%(前期:1.8%)、賃借料率:5.2%(前期:2.8%)、支払利息率:18.3%(前期:6.5%)、営業利益率:-56.9%(前期:7.6%)、付加価値合計比率では43.4%(前期:61.2%)である。
 上記のように今期は営業利益率が-56.9%と極端に低かったが、それでも付加価値率は業界平均に比べ非常に高い。支払利息率が18.3%と高いことから借入金が異常に高いことが窺われる。前期も赤字は免れたものの、借入金の返済には到底及ばなかったので、トータルとしての負債総額はむしろ増加している。
 総資本の回転率が0.3回と低く、業界平均の25%程度の総資本稼動率であることから、売上げの減少が大きく影響したように見えるが、実は五十歩百歩の状態なのである。つまり、前期の場合で計算しても、税引き後の返済原資は売上高比で3.2%{減価償却費比率+営業利益率の50%?支払利息率=5.9%+(7.6%÷2))?6.5%}となる。
 つまり、借入金の残高が仮に売上高と同額だとしても32年の返済期間が必要ということになる。まして、支払利息率の大きさからみて前期の売上高の2倍近くあることは明らかであるから、少なくとも50年以上必要ということになり、今後売上げが回復したとしても返済は殆ど不可能に近いと判断せざるを得ない。
 相談を受けた時点で、解散もしくは営業譲渡を勧めたが、経営者はどうしてもこのまま経営を継続したいという意向だったので、改善計画を策定して金融機関を始めとする債権者に提示したが、ゴーサインは出なかったものの、とりあえず数ヶ月間推移を見守ることで了解を取り付けた。
 この猶予期間に経営改善に取り組むべく努力はしたものの、あまりにも負債が大きいので、企業を再生したいのであれば、実現可能なキャッシュフローを算出し、その10年間のトータルを資本コストで割り引いて、現在価値をシミュレーションしてみることを提言したが、経営者は聞く耳を持たなかった。