名を惜しんで実を捨ててしまった選択

生鮮食品製造業のS社の売上高対付加価値率は、人件費率:19.9%、減価償却費率:0.0%、租税公課率:0.2%、賃借料率:0.9%、支払利息率:0.7%、営業利益率:0.7%、付加価値合計比率では22.4%である。一見して解かるようにこの企業の問題点は、付加価値率は業界平均を上回っているのに人件費率が異常に高いことにあり、そのため労働分配率も高いことが営業利益率を圧迫しているとみて間違いない。
 これを総付加価値に占める割合に直すと、人件費率(労働分配率):88.8%、減価償却費率:0.0%、租税公課率:0.9%、賃借料率:4.0%、支払利息率:3.1%、営業利益率:3.1%となり、人件費と賃借料が節約できれば借入金の返済原資は十分に捻出できると見込まれたので、以下に示すような内容を骨子とする改善提案を行った。
 当社の最大の強みは、減少傾向にあるとはいえ固定した販売ルートをもっていることであり、反対に最大の弱みは、高い付加価値を確保するために無駄な人員を抱えていることである。もちろん、誰が無駄な人員でるとは特定できないので、正社員を減らしパートに切り替えるなどの努力はしてきたのは事実である。
 しかし、こうした場当たり的な対処療法で凌いできたことが災いした形で、金融機関からの借入以外の買掛金や支払手形が膨らみ、資金繰りが一層悪化してしまった。この状況のもとで選択できる戦略は限られていると判断せざるを得なかったが、人件費の削減策がメーンになることは確かなので、まずこの点から検討することにした。
 この時点では当然のことながら、従業員一人当たりの月平均人件費は業界水準を下回っていたので、人件費を削減するということは、人員解雇以外にはないわけであるが、解雇すれば生産が減少するので、当社の最大の強みである売上げが減少することになり、経営改善計画が根底から崩れることになる。
 そこで、提案したのは流通業への転換である。つまり、これまでの商品供給機能を活かし、ベンダー企業に変身することで活路を見出す方策を提案したのである。この場合、付加価値率は半分程度に減少するが、人件費比率の減少がそれをはるかに上回るので、最終的な営業利益は格段に増加する。しかし、この提案も残念ながら時間切れとなった。