成熟期にある製品ラインの位置づけ

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取扱製品のライフサイクルが衰退期を過ぎても生産を中止できない場合がある。例えば、その製品に対する根強い支持者あるいは固定した需要が存在し、これを廃止すると比較的採算性の良い製品の売上げも失ってしまう虞があるといった場合であり、特にこれをメーン製品としている企業の場合は深刻である。
 こうした状態が長期にわたり続いていた企業から相談が持ち込まれ、経営診断を行ったときのことである。ヒアリングにより詳しく内容を調査したところ、実態はもっと深刻で大手企業とも競合しているので、原材料の調達でもハンディキャップあり、原価率の引き下げで採算を維持する方策も講じがたいということであった。
 財務諸表を分析してみると、従業員一人当たり設備資産は業界水準をはるかに越えていているため、設備効率が低く付加価値生産性も著しく低くなっていること、販売拠点としている営業所数や営業社員も過剰であるため、従業員一人当たり売上高も低いという状態にあること、などが明確に把握できた。
 当然のことながら部門間のコンフリクトが顕在化し、営業部門と製造部門の対立は文字通り水と油のような関係であった。わが社の製造部門は何故ユーザーの要望に応えられる品質と価格を実現できないのかと営業マンが言えば、営業マンの販売努力が足りないので不採算に陥ってしまったと製造部門では言う。
 両者がお互いに本気でそう思っているとすれば、まだ品質・価格の面で改善の余地が有ることになるし、販売促進策の工夫次第で売上高の伸張も望めることになるはずである。会社が危急存亡の危機にあるというのに、自分の力を温存しつつ他人の怠慢のみを指摘し合うという構図が浮き彫りになった。
 幸いにしてこの企業の場合は、多少の曲折はあったものの、製造部門と営業部門が情報の共有化に努めたことで、品質の改良と大幅なコスト削減が実現し、売上高も劇的に回復し事なきを得たが、相談の内容が人事労務制度の改善ではなく、製品ラインの廃棄に関するものであったことが何とも奇妙な感じであった。