欧米企業にみる人事評価制度の現状(その2)

(4)米国における職務給の考え方

 実はリーダー層以外の従業員に適用される職務給の考え方も、米国と日本では異なっている。米国では職種ごとに明確な賃金の基準があり、働き手が少ない職種では賃金が上がり、逆に働き手が多い職種の賃金は下がるという市場原理が働いていると片桐氏は言う。このような仕組みが米国ででき上がったのも、実は戦時中だ。大湾氏は解説する。「戦争によって働き手が不足するという現象は、日本もアメリカも同じでした。しかし、それに対応する政策は日本と180度異なるものでした。

日本が企業間の人の移動を制限したのに対し、アメリカでは人手に余裕のある産業から、人手が足りない産業に働き手を移動させる政策をとりました。この時に行われたのが『職の標準化』です。社会に存在するほぼすべての職種を網羅してそれぞれの職を緻密に分析し、職務の定義を行ったのです。それ以降これが客観的指標の一つとなり、誰もがそれを見て職業を選ぶことができるようになりました。結果として働く人の流動化が促進されることになり、また職務ごとの賃金水準もそこで定まることになったのです」。

(5)「業績」と「能力」二つの軸での評価

 以上、見てきたように、欧米、とりわけ日本と米国の企業風土は大きく異なるが、アメリカにおいても、成果によって一律に社員を評価する仕組みが実現しているわけではないことがわかっていただけたと思う。「成果」という指標の導入が日本企業でも不可避となっているとはいえ、それをどのような職階にどのように適用するかは、結局のところ、それぞれの企業の判断ということにならざるを得ないだろう。

 この項の最後に、成果主義導入の一例といて、GEのケースを見ておきたい。数々の独自の人事制度によって知られるGEだが、特にこの9Blocks図3(省略)はよく知られた評価指標である。この「9Blocks」の基本的考え方は、「業績(パフォーマンス)」と「職能」(ポテンシャル)」を縦軸・横軸とし、社員を9つの象限のどこかに位置づけるというもの。先に大湾氏が指摘しているようなアウトプットの偶然性(景気の動向など外的要因)を、その人が本来もっていると思われる能力によって補正して評価を下す優れた仕組みである。

 上記の記述から、アメリカ型は「職務給」、日本型は「職能給」であるいえるだろう。そして、職能給はあらかじめ設定された「仕事」を通じて求められる「業績」をもたらすことが「給与査定」の原則であることから、「仕事給」と呼ばれることもある。一方、日本型の給与制度は、仕事やOJTなどを通じて「職務遂行能力」を高め、それが一定段階まで達すると、「昇進・昇格」するという「職能給型」である。つまり、日本型の給与制度(評価制度)は、「蓄積した職務遂行能力」を発揮することで、結果的に「業績」を上げることを期待するというものである。

 それに対して、アメリカ型は「期待される仕事の成果」が初めに設定されているので、その職務をこなす能力が備わっているものを雇用し、「成果」を勝ち取ることで給与額が決定する、という制度であるから、同じレベルの「職務」を遂行する者同士の給与額は、「職務遂行能力」に差があっても変わりはないことになる。さすがにそれは不合理だということで、「同じ職務」であっても、それを細分化し、最終的な給与額に差がつくような制度に改定している企業もある。

 一方の日本型の「職能給」は、仕事に習熟し能力レベルが向上しても、役職が埋まっていれば、職階を上げることができない。そこで、オプションとして「理事」「専門課長」などの役職を設けて就任させる制度を導入するというケースも見られる。いずれにしても、人が人を評価することには変わりがないので、現状ではどちらの制度も一長一短あると言わざるを得ない。しかし、現実問題として、評価をしないという選択をすることはあり得ないので、やむを得ない面もある。