新しい商業航空機を開発するのは極めて博打の要素が強い。新しいエンジンを設計するだけで二O億ドルもの費用がかかり、新しく、いい飛行機を作るのは社運を賭けた試みといっても過言ではない。飛行機開発に政府が介入し、国内メーカーのためにより大きな市場を確保しようとするのもむべなるかである。ここで150人乗りの中型ジェット機の市場を見てみよう。その市場に参入したのはボーイング727とエアバス320である。先にボーイングが727を開発した。はたしてエアバスにとって市場に入るのは理にかなった行動だっただろうか。
これらの航空機には米国とEC諸国の二つの基本的な市場があり、もし、一社が市場を独占すれば、それぞれの市場は独占企業に九億ドルの利益を与え、もし、二社が市場でシェアの奪い合いをすれば、一つの市場全体の利益は九億ドルから六億ドルに下がり、両社で折半されると仮定する。ただし、競争のあるときは、企業の利益は減少しても、航空機の価格が下がり、それに伴い航空機の運賃も下がるので、消費者は利益を受ける。これらの消費者の利益は一市場につき七億ドルだとしよう。
エアバスは、エアバス320を開発するのに十億ドルを要すると推定した。もし政府の支援なしに開発を進めれば、米国とECの市場から三億ドルずつの利益を上げ、合計六億ドルとなる。しかし六億ドルの利益では、十億ドルの開発コストを賄うのに不足する。EC諸国は、すでに農業の助成に多くの予算をさいていたので、補助金を支出してエアバスを援助することは無理だった。
鉄砲かバターかという伝統的な選択で、ECはバターのほうを選び、武器やエアバスに回す金は残っていなかった。さて、ブラッセル(ECの本部)に呼ばれ、ECは保護市場を創出してエアバスを助けるべきか、別の言い方をすれば、ヨーロッパの航空会社はボーイング727のかわりにエアバス320を買うようにさせて、エアバスを援護すべきかを尋ねられたとしよう。どういうアドバイスを与えたらよいだろうか。また、米国政府はどのような反応を示すだろうか。
《ケース・ディスカッション》
もし、ECが域内市場を保護して米国市場が開放のままとどまれば、エアバスはECでは独占者として九億ドルの利益を得、米国では複占者として三億ドルの利益を取るだろう。その場合には、十億ドルの開発費用を上回って採算がとれる。しかし、全体的な見解から、この生産はECの利益にかなうだろうか。エアバスの利益としてECの消費者の損失を比較する必要がある。
もし、EC市場が保護されなければ、エアバスは赤字になるので市場に参入できない。すると、ボーイングがECで独占ということになり、消費者はいずれにせよ独占の弊害を被ることになる。したがって、エアバスが独占しても消費者の利得に変化はない。エアバスの利益はEC全体の利益に合致するので、ECは域内市場保護を約束して、エアバスに有利に取り計らうのが良いように思える。
そのためには、ECが保護策を確約することが極めて重要である。ECが域内市場をどうするか未定のまま、エアバスは市場に入ったとしよう。その場合、ECはエアバスを保護する誘因が働かない。もしEC市場が開放されたままであれば、エアバスの利益はプラスの二億ドルからマイナスの四億ドルへ、六億ドル減る。しかし、同時にボーイングとの競争からは、ECの消費者に対し七億ドルの利益が発生する。かくしてエアバスは、ECが域内市場保護策をとるか疑問視し、結局150人乗り航空機の市場に入れない。
米国の反応はどうだろうか。もし米国が迅速に行動すれば、米国も、エアバスが生産を開始する前に、米国市場を保護すると確約することができる。先読みして考えてみよう。もし、米国の市場を開放のままにしておけば、先ほどの構図とかわらない。ボーイングはEC市場から締め出され、米国市場では、エアバスと競争して三億ドルの利益を得る。一方、米国の消費者は国内市場での競争により七億ドルの利益を受けるので、もし、市場を開放しておけば、米国経済には計十億ドルの利益が生まれる。
逆に米国も保護策をとり、米国の航空会社はエアバス320ではなく、ボーイング727を買うことになったとしよう。そのとき、エアバスはEC市場から九億ドルの独占的利益でも、まだ開発費用にとどかない。したがって、エアバス320は生産されないだろう。その場合、ボーイングはEC、米国の市場で独占を享受し、十八億ドルの利益を上げることができる。この利益額は、市場が開放されているときの額より大きい。米国の側も、同じように国内市場保護策をとれば、エアバスを援助するECの計画は粉砕される、ということになる。