アンドリュー・トニーが本当にホットハンドの状況であれば、相手チームは彼に対するディフェンスを強力にするに違いないのである。ゲーム理論の説明はこれだけではない。ディフェンスがトニーに集中すれば、チームメートのだれかがフリーになりシュートが成功しやすくなるであろう。つまり、トニーがホットハンドのとき、彼自身の個人成績は低下するかもしれないが、セブンティシクサーズのチーム成績は向上するのである。
だからホットハンドがあるのかどうかのテストをするには、チーム全体の成績を見なければならない。同様の現象は他の多くのチームスポーツにも見られる。フットボールで強力なランニングバックがいればパスプレーが決まりやすくなり、うまいパスレシーバーがいればランニングプレーが成功しやすいのも、相手がスタープレーヤーをディフェンスするあまり、手薄な個所ができるためである。
1986年のワールドカップサッカーの決勝戦でアルゼンチンのスター、ディエゴ・マラドーナは特点を上げなかったが、西ドイツのディフェンスの間隙をぬったパスによりアルゼンチンは2得点をあげている。スターの価値は彼の上げた得点だけでは評価できない。チームメートの成績への貢献は大であり、アシストという概念により貢献度を計ることができるアイスホッケーでは、アシストとゴールは個人成績ランキングにおいて同等の重みをもっている。
選手はホットハンドにより自分自身のプレーを助けることもある。ポストンセルティクスのスター、ラリー・バードは右手のシュートが得意である(とはいえ彼の左手シュートも普通の選手よりは遥かにうまい)。ディフェンスはバードが右利きだとわかっているので右手シュートを主に警戒する。しかし、右手へのディフェンスだけに集中すれば、フリーになった左手で決められてしまうのでそれもできない。
バードがシーズンオフに左手シュートの上達の練習に専念したらどうなるだろうか。ディフェンスは左手シュートをブロックしようとする機会が増えるため、バードの右手はフリーになりやすくなる。左手シュートが上達すれば、右手シュートも決まりやすくなるというわけだ。もう一段進んだ考察として、第7章では、左手の方がうまい人ほど左手を使う頻度が少ないことが示される。
この一見変に見える事柄を、テニスをするときに体験している人が多いだろう。バックハンドのほうがフォアハンドより極端に下手な場合、相手はバックハンドを攻めてくるのでバックハンドを使う頻度は多くなるのである。それがよい練習になってバックハンドが徐々にうまくなり、フォアと同じレベルになれば、相手の攻撃はバックに集中せず、フォアとバックに平均的に打ってくるようになるだろう。得意のフォアハンドを使うチャンスが増えたのは、バックハンドが上達したからであるといえよう。