ケース・スタディ{その4 ポイズンピル}

 

 近年、企業は、外部からの乗っ取りに対抗するため、「シャーク・リベレント」(サメ退治)と呼ばれる新しい手法を開発してきた。ここでは、これらの手法の効率性や道義性には触れる余裕はないが、シャーク・リベレントの一手法であるポイズンピルの新種を示すので、この攻撃法を考えてほしい。ターゲット企業はペッパー社である。現在は株式を公開しているが、家族経営を残し、五人の取締役はいずれも創業者の孫にあたる。

 まず、ポイズンピルの一つ目として、創業者は孫同士の対立や外部からの脅威を予想し、そうした事態から会社を守るために、取締役の改選時期をずらす規則を作った。例え誰かが株の100%を取得しても取締役全員を一度に代えることはできず、任期が切れたものを代えるに過ぎない。五人の取締役はそれぞれ五年の任期がある。改選の時期は一年ずつずれている。だから外部の者は、せいぜい一年間に取締役の椅子を一つしか手に入れられない。

 順調だったとしても、取締役の過半数を得てこの会社を支配するには三年を要するように見える。次に、創業者は、敵対的買収を行なった者がこの改選手続きを変更してしまうことを心配して、ポイズンピルの二番目の規則として改選手続きの変更は取締役会での採決によってのみされるとした。取締役はだれでも単独で提案を行うことができる。しかし、これにはトリックが仕組まれていた。

 提案者が自らの提案に賛成票を投じるところから採決が始まる。投票は取締役の丸テーブルで時計回りに順次行われ、提案が通るのは取締役の50%の賛成が必要である(欠席者は反対とみなされる)。取締役は五人しかいないので、五分の三の賛成が必要となる。さて、次の条項がポイントとなる。取締役のメンバーや改選手続きを変えようという提案を行って採決に敗れると、その人は取締役の地位と持ち株をはく奪されることとする。

 そしてその持ち株は残りの取締役に均等に配られる。さらに採決に破れた提案に賛成した人もまた、地位と持ち株を失う。しばらくの間、これらの規則のおかげで敵対的買収から逃れることができた。しかし、シーショア社のシーシェル女史が51%の株を取得し敵対的買収に乗り出してきた。シーシェル女史は、改選時に自ら投票し、取締役の一人に収まった。しかしそれでも取締役の勢力は一対四だから、一族による支配が今すぐには崩壊するようには見えなかった。

 最初の取締役会でシーシェル女史は、取締役メンバーを入れ替える急進的な提案を行った。取締役会でのこの種の投票は、今回が初めてであった。そしてその結果、意外にもシーシェルの提案が全会一致で通ってしまった。シーシェルはさっそくメンバーの総入れ替えを行った。旧取締役たちは、一定の退職金を与えられ会社を去って行った。さて、彼女はどのような提案を行ったのか。

 ヒント:遠回りして逆戻り推量により考える必要がある。まず、提案を通過させるために必要な制度を創造してみて、次に全会一致になった理由を考えるとよい。確実にシーシェルの提案が通るようにするためには、最後の段階から考え始め、最後の二人には提案に賛成票を投じるインセンティブを与えなければならない。それさえできれば、シーシェルが最初に投じる賛成票と合わせて提案は成立するのである。

 

《ケース・ディスカッション》

 トリック次の提案はよくある手だが、これもその一つである。シーシェルの提案は次のようなものであった。①もし提案が全会一致で採択されれば、シーシェルが取締役の総入れ替えを行う。各取締役は、少額の退職金が支払われる。②もし提案が四対一で採択されれば、反対した一人は取締役の地位を失い退職金の支払いもない。③もし提案が三対二で採択されれば、シーシェルはペッパー社株の持ち分51%全てを賛成票を投じたシーシェル以外の二人に均等に与える。反対票を投じた二人は退職金なしで地位を失う。

 ここで逆戻り推量を使ってみよう。票が二つにわかれ、最後の人が投票するときには二対二である場合を考えてみよう。もし彼が賛成すれば提案は成立し、彼は株の25.5%を取得する。もし賛成しなければ提案は不成立となり、シーシェルの持ち株は残った三人の取締役の間で均等に分けられるので、彼は株の17%を取得することになる。だから彼は賛成票を投じるであろう。

 皆が逆戻り推量を行うことにより、二対二になったら最後はシーシェルが勝つと予測できる。次に四番目に投票する人の立場に立って考えてみよう。その人が投票する段階では、賛成票が、①1票(シーシェルの投票)、②2票か③3票かのいずれかである。賛成が三票であればすでに成立している。四番目の人は何も得られない(ケース3)よりは、多少とも得られる(ケース1、2)方がよいので賛成票を投じるだろう。賛成票が二票であれば、彼はたとえ自分が反対票を入れても最後の人は賛成に回ると予測でき、提案の成立を阻止できない。だからやはり勝つ側についたほうがよく賛成票を投じることになる。

 最後に、賛成票が一票しかない場合、彼は進んで得票を二対二に持ち込むであろう。そうなれば最後の人が賛成に回り、その二人は大きく得をすることは確実に予測できる。最初の二人の取締役は難しい局面に置かれる。しかし彼らはたとえ自分たちが反対票を入れても、残りの二人は賛成に回り提案は成立すると予測できる。どうせ提案成立を阻止できないのであれば、賛成側について少しでも利得にあずかるほうが良いというわけだ。逆戻り推量のパワーがよくわかる例ではないだろうか。