オークション{その6 インターネット・オークションの将来}

 

インターネット・オークションの普及は目覚ましいが、それでもまだ黎明期にあり、将来の予測はむずかしい。IT時代の取引では従来の経済理論では説明できないことが生じると主張する人も多い。この文脈でよく引き合いに出されるのが、ネットで取引されているもので、本来同じ価格がつくべきものなのに、異なる価格がついてしまっている点である。実際、インターネット・オークションで同じようなアイテムが異なる価格で取引されていることを目撃する機会は多い。

しかし、この指摘には注意が必要だ。理論によれば同じ価格がつくのは、まったく同一の者であるが、抽象的な世界ならまだしも、現実世界ではなかなか全く同一の物というものにはお目にかからない。経済理論の言う「一物一価」の原則は、あくまで抽象的な世界での一般論を言うもので、完全に同一の物が存在しない現実世界の個々の具体的アイテムに関しての主張ではない。実際、スーパーで売られているキャベツにしても厳密な意味での「一物一価」が成立することはまずありえない。

たいていの人は、スーパーの買い物でキャベツを任意につかむのではなく、よりよいものを選んでカートに入れる。つまり、本来価格が異なるものに無理やり同じ価格がつけられているから選別するインセンティブが生まれるのであって、ナイーブな解釈での「一物一価」が成立していないという証拠にほかならない。また、ゲームソフトなど均質性があって大量に流通している商品の取引価格を追っていくと、かなり「一物一価」に近い現象が観測できる。

また、黎明期にありがちな、参加者の慣れの問題もある。現在インターネット・オークションの戦略的構造を理解せず勘とガッツでオークションに参加し、必要以上の出費といらぬ買い物を続けている人は、時がたつにつれてオークションにおける戦略的思考を身に付けるか、あるいは損害に耐え切れずにオークションに参加することを止めてしまうのであろう。つまり、時間がたってオークションが十分に普及して来れば、無用にアツクなることなく理論どおりにクールに行動する人が増えるであろう。

経済理論が本当に見直しを必要とするかどうかを結論づけるためには、そのときまで待たなければならないであろう。インターネットの匿名性を悪用した詐欺も問題になっている。競り落とした人が入金しなかったり、出品者が入金後約束した品物を届けない、あるいは宣伝に偽りがあったり品物が盗品だったりするケースは、数多く報告されている。これらの詐欺行為の撲滅に全力を尽くすべきである。

 これは道徳の問題ではなく、そうしないサイトは次第に参加者を失い、淘汰されていくであろうからである。この場合、オークション主催者は利益追求のため詐欺行為を撲滅するインセンティブがある。ヤフーの有料登録制度はこの点でも有力であり、登録制度導入後あからさまに詐欺行為は減少している点からして、おそらくは有料参加者をふるいにかける戦略的なスクリーニングのシステムとして機能している。近い将来、インターネット・オークションのサイトが集まり第三者団体を設立し、詐欺を防ぐ努力をしているということを潜在的なオークション参加者にシグナリングするという行動も見られることであろう。