オークション{その4 競争入札&インターネット・オークション(2)}

 

したがって、Yahoo!オークションの戦略的構造も標準的な競売と同じであるから、自分が支払う意思のある最高金額を決めておいて、あの時点での入札価格がその金額に満たないならば、それより高い金額(すなわち、現在の入札額に最低の上げ幅を加えた金額)を入札する(「アウトビッド outbid」するという)し、最低金額を超えてしまったら、もう入札しないというのが最善の戦略である。

ところが、この戦略を実現するためには、競売期間終了間際から、サイトにアクセスしつづけ、最後まで粘って入札を繰り返さなければならない。自分の興味がある商品の競売終了時間が、自分の都合のよい時間であるとは限らないから、わざわざ都合つけて入札に参加するというコストを考えると前述の戦略は必ずしもすぐれたものとはいえない。そこで、ヤフーでは自動代理入札システムを利用するのが標準となっている。

このシステムは、はじめにシステムに金額を登録しておくと、他の競争相手がアウトビッドしてきた場合、登録した金額未満であれば、自分が最高入札者でいられるように、自動的に再入札してくれるし、登録金額を超えると自動的にビッドをやめてしまうようというものだ。登録した金額は、ほかの人にはわからない。したがって、はじめに自分の支払う用意のある最高金額を登録しておけば、競売における最善の戦略を自動的に実行してくれるはずだ。

言い換えれば、買う意思があれば、自分が払う意思がある最高金額を登録しておいて、あとは何もせずにいて(すなわち入札の作業ははじめの1回だけ)、競売の期間が終わったころにどうなったかを見に行けばよすはずだ。ところが、すべての買い手が自動入札システムを使っているとき、各個人が指定する最高価格と入札価格の動きには面白い関係が生じる。これを具体的例を使って考えてみよう。

今、ある日の午後5時を期限に売り出されている本があるとしよう。これをAさんがみつけたときには入札価格は100円であったので、最高価格1300円で自動入札したとしよう。このときの入札価格のあげ幅は100円であるから、Aさんは自動的に1100円(=1000円+100円)を入札する。そのときには、たまたま誰も1100円以上にビッドしてこなかったとしよう。すると、Aさんは仮の落札者となり、このときの入札価格1100円が画面に表示される。

その後、午後3時にBさんは自動入札で1200円(=1100円+100円)を入札し、Aさんも自動入札で1300円を入札、Bさんもこれに応じた自動入札で1400円を入札する。すると、この入札価格はAさんの設定した最高価格の1300円を上回っているので、Aさんはもう入札をしない。今度はBさんが落札の権利を得て、入札価格1400円となる。落札の権利はあうとビッドしたBさんに移転するわけである。

さて、このあとCさんが午後4時に1600円を最高価格に自動入札をしたとすると、Cさんの入札価格は1500円(=1400円+100円)であるが、Bさんは自動入札で瞬時に1600円をビッドする。Cさんはそれ以上にビッドしないから、落札権利者はBさんのままだが、Bさんが見ている画面では、入札価格は突然1600円に変更されたかのように見える。つまり、Bさんの立場で見ると、自分の最高価格1800円が高すぎるため、誰かに価格をつり上げられたわけで、価格をもう少し低く設定しておけば、このような被害には合わないかのように感じられる。

このことから、このオークションの参加者には、自分が払う予定の最高額を最高価格として自動入札するのではなく、その時点の入札価格よりも少しだけ高い金額を最高入札価格にしてビッドする人が多い。しかし、そのようにじわじわと最高入札価格を変えていくのは大変である。その時点の入札価格よりも少しだけ高い金額を最高入札金額にしてビッドするというのは、確かに最善の戦略を実行するものではあるが、時間のコストを考えればやめたほうがよい。これでは、最適な戦略を自動的に実行してくれるせっかくの自動入札システムの利点が全く生かされていない。自動入札の最高入札額を何度も行進するのは、よっぽど時間に余裕のある暇な人たちか、戦略的構造を理解していないシロウトのはずである。普通の職業についている人には、お勧めできない。

しかも、あえて最高価格を自分が払う意思のある金額より下げておいて、あとからまたつり上げる戦略は、予定通り実行するのがむずかしい。実際にオークションに参加すると、終了時刻間際になって最後の瞬間にアウトビッドされることがよくある。最後の瞬間にアウトビッドすることを「スナイピング」というが、手に入れたと思っていたものが、最後の最後で逆転されるのは大変悔しいから、これに対してはアウトビッドし返すべくさらに入札したくなる。それに対してまたアウトビッドされたりすると、頭に血が上ってきて、いくらでもよいから絶対に落としてやるという気分なる。

そのように冷静さを失うと、はじめに予定していた支払金額を超えてしまっても、気合でアウトビッドする羽目になる。実際、オークションの独特な雰囲気で、自分の決めた最高額までしかビッドしないという戦略を冷静に運用するのはむずかしい。はじめは3000円までと思っていても、アツクなると思わず高値で入札金額を登録して自動入札にしておけば、アツクなることなしに、最適な戦略を自分のために実行してくれるという利点まである。このあたりのことは、少なくともオークションの主催者には理解されているようで、どこのサイトでも、自動入札を使い、入札は一度だけするのが上手に競り落とす秘訣だということが述べてある。