戦略的選択(その1)

 日本における近年の開廃業率の変化を見ると、統計による誤差はあるものの、事業所ベース、企業ベースのいずれでも開業率が廃業率を下回っている。その理由については、一般的に言って開業資金が大幅に増加していることが大きいとも言われている。しかし、反面、多様な資金調達手段が出現しているところを見ると、根本的な原因でるとは思えない。

 成功している起業に見られる特徴は、1)よく知っている業種を選んでいること、2)身の丈に合った製品を選んでいること、3)製品やサービスに付加価値をつける工夫がされていること、4)製品に適した市場セグメントをしていること、5)適切なサービス提供方法を選択していること、6)魅力あるキャッチコピーを使用していること、といった共通性があるようだ。

 これらの特徴は、一見するとバラバラの戦略のようにも見えるが、実は一つの統合化された戦略によって、必然的に選択されたものである。つまり、臆病で用心深いという性格から、これまでせっせと貯蓄した資金やキャリアを無駄にしたくないという心境から生まれた「失敗しないために練られた戦略」であるから、誰にでもチャレンジする資格はある。

 このような安全策を念頭に起業を考える時、まず、どんな業種を選ぶべきかが問題になる。もちろん、これまでにない画期的なアイディアにより、新しい顧客を創造するという場合もあり得るだろうが、ここでは、起業家としての一歩を踏み出すという前提で考えれば、自分が慣れ親しんだ業種を選ぶのが一番安全で、その方が成功率も高くなる筈である。

 業界には、良くも悪くもその業界の特有のルールやしきたりというものがあり、誰もがそのやり方に矛盾を感じていたとしても、一度コーディネートされてしまった枠組みはそう簡単には壊せない。起業するには、まずその業界特有の事情を熟知しているか、最小限その枠組みから離れない程度の業種であることが、有利に展開できる可能性が高いからだ。

 たまたまその業界の製品に詳しいと自負していても、それは「第三者的な過信」である場合が多い。どれほど知識があっても、それは第三者としての知識であり、事業を切り盛りするマネジメントに関する知識ではない。ビジネスとして考える視点に欠けていれば、どんなに商品知識があっても、一から学び直す覚悟が必要となり経営資源が活かされない。