残存利益の見積りと撤退戦略

 

 適者生存とは、「強いものが生き延びるのではない。変化に適応したものが生き延びるのだ。」という主張である。それに対して、「運の良いものが生き残る」という運者生存という考え方もある。また、「運も実力のうち」などという冷ややかな見方もあり、どちらに賛成するか、意見が分かれるところであろうが、確かに運・不運を感じてしまうことはある。

 成熟期に入った業界では、急速に撤退が始まるため、競争環境が緩和されることがある。その結果、その市場に留まり続けた企業が、残存利益を享受できたという場合がある。これがいわゆる「残り物に福あり」ということなのだろうが、残存利益を享受するためには、単にとどまり続けただけではなく、市場に適したビジネスモデルを構築する必要がある。

 つまり、留まるにしても、撤退するにしても、競争することは避けられないが、この競争環境がある種の参入障壁となり、新規参入をブロックする役割を果たしていることもある。例えば、労働集約型でかつOA化が馴染まない産業の場合、新規参入企業にとって魅力ある市場とは判断しがたく、資本投下する意味がないということになるケースである。

 季節や気候などに左右されるため、安定した操業を維持することができないが、一定程度の需要があるため、産業として存続し続けるが、生産性が低い構造は手つかずのままという、労働集約的な地場産業などでは、こうした構造自体が参入障壁となっている。水産加工業などはその典型であり、ここでは変化に適応したごく少数の企業が生き延びている。

 撤退戦略は、競争戦略を遂行した結果、競争に敗れたので撤退すると捉えれば、撤退戦略も競争戦略であることになるであろうし、無益な競争を避けて、蓄積された利益の余剰があるうちに、魅力ある新分野に進出しようというのであれば、非競争戦略であるといえるだろうが、見方によっては、新分野に向けた競争戦略であるとも言えるかも知れない。

 ブルーオーシャン戦略にしても、青い海が永遠に続くことを前提にしているわけではなく、新しい顧客に対して、新しい価値を提供するビジネスモデルを開発するというもので、競争戦略が衣の下に隠されている。こうしてみると、「強いこと」「変化に適応すること」「運のよいこと」はどれも捨てがたい。何故なら、これらは無関係な要素ではないからである。