ビジネスモデルイノベーションへの取り組み

 

 旧態依然としたビジネスモデルでは、顧客価値観(優先順位)の変化についていくことはできないと感じている企業は多いに違いない。しかし、長年にわたって築き上げ慣れ親しんできたビジネスのやり方を変えるとなると、必ずしも、経済的合理性だけで、ビジネスモデルイノベーションに取り組む体制が整うとは限らないのが、現状のように思われる。

 本書の冒頭に、「ビジネスモデルとは、どのように価値を創造し、顧客に届けるかを論理的に記述したもの」とある。すなわち、キャンバスの9つの構築ブロックでいうと、「顧客セグメント」と「価値提案」に当るものと思われるが、もちろん、これだけではビジネスとして成り立つものではない。少なくとも、「主要活動」や「リソース」を抜きに語れない。

また、ビジネスモデルを実施する戦略という局面から見ると、「顧客、価値提案、インフラ、資金」なども、重要な要素ということになるので、9つのブロックについて言及せざるを得ないことは確かであるが、これらの要素をはじめから意識して、ビジネスモデルのデザインに取り組むのでは、経営資源が脆弱な企業にとっては、敷居が高いかもしれない。

事実、中小企業の経営者の感想は、総論賛成、各論反対といった、極めて消極的なコメントが寄せられている。しかし、ビジネスモデルについて記述するには、あらゆるケースを念頭におかなければならないので、共通の言語で語られているとは受け取れないかもしれないが、自社のビジネスモデルを検証するツールとして捉えれば、十分に活用できる。

要は、キャンバスの大きさに幻惑されることなく、現行のビジネスモデルでは、なぜ財務目標が達成できないのかを、検証してみるという姿勢で挑めば、自然にMECEに考えざるを得ないように誘導してくれる。こうした、いわば隠れた機能を活用することから入っても、ビジネスモデルイノベーションの必要性に気づき、積極的に取り組めるようになる。

 すなわち、ビジネスモデルのデザインについて、少し認識が甘いのではと思っているようであれば、まず、既存モデルを検証してみることから入り、改善、改革へと発想を進化させ、ビジネスモデルイノベーションへと意識を高めていけばよい。つまり、与えられたパーツを使いこなすという発想ではなく、問題解決のためのツールとして捉えれば足りる。