SMHのスウォッチに対する自立型モデル(その2)

 部品の少ない時計をつくるために取られた方策は、ネジは金型で成形されたものに置きかえられ、直接労務費は10%未満に抑えて大量生産する。製造は高度に自動化されていった。また、革新的なゲリラマーケティングのコンセプトを活用し、さまざまなデザインの時計が市場に送り出していった。つまり、マーケティングコンセプトを変えたのである。
 ハイエックは、時計は時間を伝える道具としてだけではなく、ライフスタイルのメッセージを伝えるものとして、この新製品を位置づけたのである。このようにして、低価格ながら高品質、機能的でおしゃれなスウッチが誕生した。その後、5年間で5,500万本のスウォッチが販売され、2006年には、累計3億3,300万本を達成しこれを祝うことになった。
 ローエンド製品であるスウォッチのビジネスモデルを実装するという選択は、SMHのハイエンドブランドへの影響の可能性を考えた場合、特に興味深いものではあった。全く別組織、別ブランド文化にもかかわらず、スウォッチはSMHのもとで立ち上げられ、独立した企業ではなかったのである。ハイエックの成功の秘密はどこにあったのだろうか。
 SMHは、製品とマーケティング上の意思決定については、各ブランドに完全に近い形で自立性を与えたが、それ以外は一元化を進めた。製造、購買、R&Dについては、SMHのブランド全てを取り扱う単体の組織として編成した。規模を確保し、アジアの競走相手に対して自分自身を守るため、SMHは今日でも、強力な垂直統合方針を維持している。
 このビジネスモデルは、エイドリアン・J・スライウォッキー、デイビット・J・モリソン著の「プロフィット・ゾーン経営戦略」でも取り上げられている。そして、そこでは、ハイエック自身が、このモデルを称して「バースディ・ケーキ」型製品ビラミット構造と呼んでいる。そして、この低価格製品群を「ファイアウォール」という参入障壁とした。
 すなわち、低所得者の市場セグメントには、100スイスフランまで、中所得者の市場セグメントには、1,000スイスフランまでの時計を供給した。そして、高所得者市場セグメントには、100万スイスフラン以上の超高価な時計を提供するモデルとした。つまりこのモデルは、ファイアウォールが高級品のプロフィット・ゾーンを守る役割を担っているのである。