CRM導入の前提条件

 CRMの導入を目指している企業は結構多いと思われるが、実際に導入して成功している企業はそれほど多くないように思われる。CRMというシステム自体、中々捉えにくいことも事実であるが、それにもまして事業機会をどのように捉えるかという戦略的思考が欠けていては、どんなに優秀なシステムを駆使したとしても成功はおぼつかない。
 CRMの導入で成功したと言われるアスクルなども、中小企業向けの通販サービスの潜在需要に着目したことが始まりであった。従来のオフィス用品市場は、サービスレベルの高い大企業向けのメーカー訪問販売と、サービスレベルの低い個人向け・中小企業向けの地域文房具店が両極に存在しているという状況にあったことに着目した。
 つまり、個人や中小企業は、文房具を購入しようとすると、地域の文房具店まで出向いていかなければ入手できなかった。ここには大きな潜在ニーズがあると睨み、中程度のサービスではあるが、中小企業向けの通販サービスを開始したわけである。この戦略がズバリ的中したことが、さらに対象を個人にまで拡大し、インターネット通販に発展した。
 CRMが目指している提供価値は、顧客にとって相応しいタイミングで商品・サービスを提供すること、ワンストップで商品・サービスを提供すること、商品・サービスの使用目的実現のためセットを提供すること、顧客が求めている情報を積極的に提供すること、標準的な顧客ニーズを提供すること、顧客の特定ニーズに合わせた商品・サービスを提供することなどである。
 CRMを導入すると言っても、これらの提供価値を全て兼ね備えていなければならないということではなく、業種や業態、企業のUVPによってメリハリをつけることは当然である。これを全部まとめて実現できると称するソフトの導入を勧められても、にわかには導入に踏み切れない企業も多いのではないかと推察される。
 ソフトはあくまでも問題解決の手段であり、問題が何であるかを経営者が熟知していなければ、解決策を見つけたことにはならない。CRMを導入しようとするには、まず事業機会をどのように捉えるか見極め、その事業機会に向けた顧客戦略を固めるべきである。そして、顧客が抱いている付加価値をどのような形で実現するかというプロセスを考えることである。