トップに対する参謀機能

 取締役の機能は企業によっては限定的であることもあるが、取締役会自体が形骸化していて、殆どイエスマンの集団と化している場合も多いようである。中小企業の場合は特にそうした傾向があるように思われるが、ワンマン社長の手腕が企業の活力源となっている場合もあるので、取締役会の形骸化を批判するのはあたらないという意見もある。
 確かに、環境がある一定の法則性をもって変化している場合は、経験則がものを言い業績も順調に伸びているとすれば、社長の方針に異を唱えることの方が取締役の存在を危ういものにすることにもなる。しかし、一旦これまでの枠組みが崩れ、変革を迫られるようになった場合、形骸化の弊害が一挙に露呈することになる。
 取締役の役割は、社長が打ち出した方針を批判したりすることではないが、経営者が変革の必要性を感じている場合には、こうした空気は明らかにマイナスに働くことになる。何故ならば、社長の打ち出す方針を自分が担当する部門に伝え、発破をかけることが取締役の役割だという考えが定着してしまっているからである。
 社長は社長で、こうした取締役の対応を否定することもせず、むしろやりやすい存在として位置づけてきたので、いざという時には頼りにならないことも薄々感じている。しかし、経営成績に陰りが見えはじめると、一変してイエスマンの存在をなじり始めるが、これまで浸ってきた土壌からにわかに抜け出すことはできない。
 取締役会に流れるよどんだ空気を浄化する役割は、本来取締役が担うべきであったはずなのに、社長がワンマンであったという理由を盾に自分を正当化する。トップが変革の推進者であることは疑う余地はないが、それだけに、現場の正しい情報を正確に伝えるという役割を忘れてしまったことのツケが一気に噴き出てしまう。
 取締役の役割は、トップに対して新鮮情報を常に供給するという基本的な役割と同時に、トップの変革に対する想いを、部門管理者に噛み砕いて伝えることにある。トップが下した結論を何の注釈も加えることなしに、ストレートに伝えるだけでは、時として部下が理解できないこともある。取締役はトップと部下の調整弁としての役割も担っている。