私的整理手続?任意整理その2

 魅力ある商品や優れたマーケティング力が欠けている場合、一時的にキャシュフローの改善を図ったとしても市場競争に勝ち抜くことができなければ、たちまち市場からの退場を強いられることになる。そうした場合、強力なスポンサーの下に事業を移すM&A型による再生手法を検討すべきである。この場合にはDDSやDESの可能性も高まる。
 もちろん、自力再生においてもDDSやDES、債権放棄を金融機関が実施することは可能ではあるが、そうしたケースは極めて例外的である。こうした場合、既存株主の持分は減資により希釈化させ、経営陣は退任するなどの経営責任を明確にしなければ、金融機関としても株主代表訴訟や債務者のモラルハザードを誘発しかねない。
 抜本的な経営改善を図るためには、M&A型の財務リストラクチャリング手法が用いられるのは、上記のような理由によるものであるが、この場合、会社更生法における再生手法と同様であるが、手続や効果について大きな違いがあることは前述の通りである。しかし、法的整理に比べて自由度が高いというメリットは大きい。
 利害関係者間の合意が得られさえすれば、不法行為に該当しない限りにおいては、法的手続のように厳格な衡平性や合理性を求められているわけではないからである。金融機関にとっては債権放棄が困難であることには変わりはないが、M&A型の方が株主や経営者の責任が明確になり、第三者のスポンサーが介在することで事業価値も上昇する。
 また、この手法をとる場合は、一般の債権を必ずしもカットする必要はないので、企業価値を大きく損ねないことが可能になる。このことは手形取引が多い日本の商慣行のもとでは大きなメリットといえる。法的整理に伴う連鎖倒産は地域経済への影響も大きい事を思うと、こうした私的整理を活用する意義は大きいと思われる。
 しかし、債権放棄や債務免除益について税務上の問題があるため、事実上は会社分割により好業績の事業部門を切り出し、その対価をもって債権者に弁済し、残った事業を特別清算するケースが見られるものの、会社分割に当たっての「債務履行の見込み」やメイン銀行への過度の負担という問題もあるなど実質的な制約もある。