変動費計画?その3

目標利益の達成は、費用の配分のみによるものでないことは論を待たないが、上記の例のように費用を文字通り固定概念で既定してしまい、本質を見失うことで経営の意思決定を誤ってしまうことはよく見受けられることである。その功罪をより解かりやすいものにするため、もう一つの事例を紹介したい。
 この事例は、上記のK社とは目と鼻の先にあるG社で、業種・企業規模ともに殆ど同レベルにある企業である。もちろん市場も同一であるためライバル会社でもあるわけであるが、こちらもご多分に漏れず慢性的な売上不振に陥っていたが、経営者は受注高の高低差(季節変動)に着目し、生産体制も受注の繁閑に合わせ固定費の変動費化を断行した。
 つまり、上記のKが拘っていた職人を繁閑に合わせてパートで賄うシステムにしたのである。実行に移すまではかなりの葛藤があったようであるが、稼動分析を実施した結果、必ずしも職人の手でなければなしえない工程ばかりではないことを発見したため、こうした定型的な業務は臨時工で補うシフトを組んだ。
 その結果、付加価値率は現状維持であるが、付加価値生産性は著しく向上しため、正社員の給与は業界水準以上に引き上げることができたが、労働分配率は多少ではあるが低下したのである。当然販売員の給与も改定することができたため、全体の士気が上がり売上の向上にも寄与しているとのことであった。
 これに気をよくした同社の社長は、より一層販売促進に努める施策を打ち出すとともに、売上、付加価値、営業利益の関係を綿密に調査する意向を明らかにしている。この取り組みは必ずや市場競争力向上に繋がるものと確信しているが、何よりも大きな収穫は、売上の低下を自社の対応力の低下と捉える考え方が身についたことだと言うことだ。
 上記の二つの事例は、考え方や着眼点はそれほど差がないのに、ほんの紙一重の意思決定の差によって、経営にもたらす影響の大きさをまざまざと見せつけている。K社の社長に言わせると、「未だ懐疑的で結果を謙虚に受け止められない」とのことであるが、客観的にみれば両社の意思決定による明暗は明らかである。