《ルール3:絶対劣位の戦略を考慮の範囲から外したうえでさらに考察を進めよ》
そこから、絶対優位の戦略が現れたらそれを選択する。プレーヤーが、行動の仕方とゲームの結果を最終的に見通せる場合もあるし、たとえそこまで至らなくても、ゲームの規模と複雑さを減じることはできるだろう。絶対優位の戦略を連続的に消去していく発想の事例として、ペルシャ湾での緊迫した海軍の交戦を想定してみよう。図3-7(省略)の格子は、戦闘部隊の位置と選択を示す。点Iに位置するイラク艦は点A(点Iの対角線)のアメリカ艦を狙ってまさにミサイルを撃つところである。
ミサイルの経路は発射時点でプログラム化されており、直線的に進むこともできるし、20秒毎に直角に曲がることもできる。イラクのミサイルがIからAまで真っ直ぐに飛ぶなら、アメリカ軍のミサイル防御は、このような弾道に対しては容易に反撃できる。だからイラクはジグザグの経路をとろうとする。点Iから点Aへ届く全ての経路が図3-8(省略)である。小さい正方形一辺(例えばIF)は、ミサイルが20秒間に進む距離を示している。
アメリカ艦のレーダーは、イラクのミサイルを発射された直後に探知し、コンピュータにより即座に迎撃ミサイルを放つ。迎撃ミサイルもイラクミサイルと同じ速さで進み、同様に90度の方向転換ができる(両方ともアメリカ製だから性能は似ている)。だから迎撃ミサイルの進路もAを出発点として同じ格子により表すことができる。しかし、相手ミサイルを空中で破壊するのに十分な爆薬を積むため、迎撃ミサイルは、三区間(例:AからB、BからC、CからFまで。以下はA-B-C-Fと表す)しか進めない。
その一分間のうちにアメリカの迎撃ミサイルが敵のミサイルを打ち落とすことができれば、両ミサイルはそこで相打ちとなる。それができなければ敵のミサイルはアメリカ艦に命中する。問題は両ミサイルの弾道の選択がいかにしてなされるか、ということである。このゲームは最初の一分間の経路がポイントである。両国は、20秒を一区間として三区間について先読みを行うが、(各区間二つの選択肢があるので)八通りの経路をとりうる。
だから両国の組み合わせでは六四通りの経路があり、どれが命中でどれが外れであるかを検討しなければならない。例えば、イラク側のIFCBという戦略、つまり、IからF、さらにCまで直線的に進み、最後にBに向け直角に曲がる戦略を考えてみよう。このときアメリカ側はABCFという戦略をとったと仮定する。両ミサイルは二区間後(40秒後)、点Cで相打ちになるので、この組み合わせは命中である。イラク側は同じ戦略でアメリカ側はABFという戦略のときには、外れになる。
両国の弾道とも点B、Fを含んでいるが、そこを通る時間が異なっているので相打ちにはならない。アメリカのミサイルは20秒後に点Bを通るが、イラクのミサイルが点Bを通過するのは60秒後である。表には全ての組み合わせが示されている。イラクの八戦略11-18(ず-8:省略)で表され、それぞれの戦略の経路が描かれている。例えば、11はIFCBを表す。同様にアメリカの戦略は、A1からA8である。命中はHではずれはOで示した。
この表は一見複雑そうだが、絶対劣位の戦略を消去するルールを用いればすぐに単純化できる。米国側は迎撃ミサイルを命中させようとするのだからOよりHのほうがよい。例えば、A2とA4を比べてみると、A2がHであるところ全てでA4はHであり、イラクの15に対してA2がOであるのにA4はHである。よってA2はA4より劣っている。このような比較を全ての選択肢についてしてみるとA2、A3、A6、A7はA4とA8より劣っており、A1はA8より、A5はA4より劣っている。だからイラク側はアメリカがA4かA8以外の戦略を選択することはないと確実に予測できる。
イラクはこの戦略のみを想定してミサイルに命中されないように戦略を練ることになるが、イラクにとっては、12、13、14、16、17、18は11か15より劣った戦略である。こうして双方の絶対劣位の戦略を消去すると、このゲームは図3-9(省略)のように単純なものになる。ルール2、3ではこれ以上の単純化はできない。つまりこの表にはこれ以上絶対優位の戦略も絶対劣位の戦略も残っていない。しかしここまでかなりのことがわかってきた。残った戦略を見てみると、イラク側のミサイルはなるべく外側の格子を進むことが望ましく、アメリカ側のミサイルは小さいループを描くように進むことが望ましい。両国が残った二つの戦略からいかに選択すればよいかは後に検討しよう。