リスクと不確実性{その3 戦略的に作り出すリスク(2)}

 

相手の「パー」を有利な戦略あるいは不利な戦略にしないためには、「パー」に負ける「グー」と「パー」に勝つ「チョキ」は同じ確率で出すべきだ。相手の「グー」を有利な戦略あるいは不利な戦略にしないためには、「グー」に負ける「チョキ」と「グー」に勝つ「パー」は、賭け金の比率に対応させて1体10の割合で出すべきである。すなわち、「グー」で勝てる「パー」をより多く出すことによって、相手が「グー」で大利を収めるのをけん制するのである。

これの2つの比から、「グー」と「チョキ」と「パー」は1対1対10の割合で出すべきであることがわかる。このような割合でそれぞれの戦略を使っていれば、相手の残りの戦略「チョキ」の勝ち負けは10対1であるから、ちょうど賭け金の逆の比になっているため、「チョキ」も有利でも不利でもない。つまり、自分の行動を予測不能にするポイントになるのは、相手に的を絞らせないということであって、それはすなわち相手に絶対に有利、あるいは絶対に不利な戦略を作らせないということにほかならない。

変則ジャンケンの場合、まずは「グー」と「チョキ」と「パー」は1対110の確率の比で出すべきであるから、毎回「グー」と「チョキ」を出す確率はそれぞれ1/12で、「パー」は10/12の確率で出すべきである。そうすれば、相手がどのような行動をとろうとも、自分は平均的には勝ちもしないが、負けもしない。このように負けない戦略を自分で取っておいて相手の出方を見る。

そのうちに相手の癖が見えてくるはずである。もし相手が戦略的に思考していなければ、相手の戦略の選び方は、1対1対10の確率の人は異なるであろうから、自分の戦略の中で、絶対に有利になるものができてくるはずである。たいていの人は10倍に引かれて「グー」を出す傾向があるので、もう少し「パー」を出す確率を増やしておけばしだいに勝つことができる。

もし相手も戦略的思考を尽くしてくれば、相手も同様に考えるであろうから、相手も「グー」と「チョキ」と「パー」を1対1対10の確率の比で出すだろう。このときは、お互いに勝てないが負けもしない。実は、それがこのゲームの均衡なのである。せっかく戦略的に考えを尽くしても勝負に勝てないとすると何かつまらないことのようだが、そもそもこのようにお金を取り合うだけの非生産的なゲームで、片方が有利になる状態が均衡状態であるはずがない。

戦略的思考でプロ野球のピッチャーとバッターの駆引きについて考えてみよう。今、ピッチャーの投げる球種とバッターの予測データが次のように与えられたとしよう。「ピッチャーAの球種:バッターBの予測=直球:直球→ヒット確率50%」、「A:B=変化球:直球→ヒットの確率10%」、「A:B=直球:変化球→10%」、「A:B=変化球:変化球→30%」。

この場合、直球を予想しているバッターに直球を投げるとヒットの確率は50%であるが、裏をかいて変化球を投げれば10%に抑えられる。同様に考えると、変化球を予想しているバッターには直球の方が有効である(10%)ことがわかる。変化球を投げれば、ヒットの確率は最大30%だから、このピッチャーは変化球の方が得意であるか、あるいはバッターが変化球が不得意であると読み取れる。

 しかし、だからといってピッチャーは常に変化球で勝負すべきではない。ジャンケンの場合の原則からすれば、バッターに的を絞らせないよう、直球と変化球を交えて投げるべきだ。最適な割合は、バッターが直球を予測しても変化球を予測してもヒットになる確率が等しくなるような割合である。これは直球1に対して変化球2の確率の比で、その時どちらの球種を予測してもヒットの確率は3分の70%だから約23%であるが、もし自分の得意な変化球ばかり投げてバッターによまれてしまえばヒットの確率は30%になる。